「凝固点降下」はあるのに「凝固点上昇」が無いのは何故か(江頭教授)
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「凝固点降下」は「沸点上昇」と同様、高校の化学で「溶液の性質」として学習する内容です。雪が積もったときに使われる「融雪剤」として利用されていることや、分子量の測定にも役立つことなどの特徴についての設問や、モル凝固点降下からいろいろな条件での凝固点降下度を計算する問題など、化学の問題の定番といえるでしょう。
ところで「凝固点降下」があるのなら「凝固点上昇」は無いのか? と疑問を持ったことはありませんか。今回は、もし「凝固点上昇」という現象が本当にあったとしたら、たとえば水のモル凝固点降下が 1.85 K・kg/mol ではなく -1.85 K・kg/mol だったら、というかモル凝固点上昇が 1.85 K・kg/mol だったらどうなるのか、を考えてみたいと思います。
例えば食塩水を例に考えてみましょう。食塩は室温付近では水100gに約36g溶けるといいます。36 g の食塩は 36 / 58.5 = 0.615 mol です。これが 100 g の水に溶けると 6.15 mol/kg の溶液になります。凝固点降下度、おっと凝固点上昇度は食塩が水中でイオンに電離していることを考えにいれて 6.15 mol/kg ×2×1.85 K・kg/mol = 22.7 K 約23℃となります。
なるほど。ではその場合、どんな現象がおこるのでしょうか?
1)(23℃より1℃低い)22℃の水に食塩を溶かしてゆく。凝固点上昇度が22℃を越えた段階で食塩水中に氷ができはじめた。氷には食塩が含まれないから氷がができるほど水の量が減り食塩水は濃縮される。その結果凝固点上昇度は高まり、ますます氷が発生するようになった。やがて食塩の飽和濃度を超え、今度は食塩が析出し始めた。最後には氷と食塩が完全に分離してしまった。
どうでしょうか。もっと考えるとこんなケースもありそうです。
2)22℃の水に塩の結晶を投入した。容器の底に沈んだ結晶から塩が溶け出すと周囲の水が凝固点上昇によって凍りはじめた。できた氷は水面に浮かんでゆき、新たな水が結晶に近づく。するととさらに氷が発生し、やがて容器内の水は全て氷となってしまった。
どんどんいきましょう。
3)海外から岩塩を運んでいる輸送船が沈没した。海の水がどんどん凍って...そして地球の生命は死に絶えた。
まあ、ケース3)は論外としてケース1)の段階ですでに矛盾は明らかです。これは水と塩が自然に(外部からの仕事無しで)分離する、つまり「水と塩は混ざらない」=「溶液にならない」という事なのです。ですから、溶液の性質としては「凝固点上昇」はあり得ないのですね。
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