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2020年7月

2020.07.31

ヒゲとマスク(江頭教授)

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 以前、こちらの記事にも書きましたが私はこの年になるまでマスクをつける習慣がありませんでした。幸いなことに重度の花粉症でもなく、風邪をひくことも少なかったので、まあ普通の事だったのですが2020年からはそうも言っていられません。感染症対策のためにマスクは必須、とくに大学のキャンパスに通う様になってからは毎日マスクを付けるようにしています。

 最初はマスクを付けることに抵抗感があったものの、そのうちに慣れてきました。快適とは言えないけれど、まあ不快って程でもないな。そんな感想に一度は落ち着いてたのですが...

 7月1日以降、本学のキャンパスに学生にも解放されて、必要に応じて研究室の学生が登校するようになりました。研究室配属前の学生諸君も主に学生実験の授業のために登校しはじめたので、ますますマスクは必須に。

 さて、それは良かったのですがこれ以降、私はマスクの意外な問題点に気づかされることとなりました。それも、私がヒゲを生やしているから。

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2020.07.30

今年はオンライン! フレッシャーズゼミ・ポスター発表会(江頭教授)

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 例年、夏学期が終わりに近づくと1年生の授業「フレッシャーズゼミ」の最終発表会の記事をブログに書いていたものです。(こちらとか。)

 「異例づくしの」というのが枕詞になっている今年、2020年ではこの最終発表会も異例の対応。WEB会議システムを使ったオンラインの発表会となりました。まず応用化学科の1年生全員と教員、それにSAさんも集まって全体の説明と、各発表の概要を30秒で説明するフラッシュプレゼンテーションを行いました。100人近くの人間がWEB会議システムに一斉に接続したらどうなるのだろう?とも思いましたが、全員マイクOFF、ビデオOFFという設定でスタートし、発表者のみがマイクをONにするいう手順が徹底していたからでしょうか、思いのほかスムーズに発表が進められました。

 その後、各教員のフレッシャーズゼミで2~3班に分かれて作ったグループ毎の発表会。これはグループで個別に会議室を設け、見学者が各会議室に自由にアクセスする、という学会で言うところのポスター発表に相当する部分です。Online_kaigi_man_20200729131501

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2020.07.29

やっぱり log の底は10だよね、という話(江頭教授)

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 ずいぶんと昔ですがこのブログに「logの底はいくつですか?」という記事を書きました。

高校では log(x) は自然対数の事だ、と習ったかも知れませんが、世の中では自然対数は ln(x) と書きますよ。

というのが一つめの要点。もう一つは

log(x)は普通は10底の対数のことですよ。

という事でした。

 自然対数を log(x) だと思って電卓で計算して間違った学生が多数。「これだから最近の若い者は」と思っていたら、実は高校の教科書で「 log(x) は自然対数のこと」と教えていた、という私にとっては衝撃の事実があって書いた記事です。最近ふと思いついたのですが、この log(x) を自然対数とする、という「文化大革命」ならぬ「数学小革命」は一体どのくらい世界で受け入れられているのでしょうか。

 そう思って調べたのは「amazon.com」のサイトです。co.jpじゃなくてcomですから、本家アメリカの巨大通販サイトですね。

 電卓、それも少し高級な関数電卓では log はどのような意味で使われているのでしょうか。日本でいう「関数電卓」に相当するものは英語では「scientific calculator」と呼ばれるようです。いろいろな製品が並んでいました。「CASIO」の製品も目立ったのですが、ここはアメリカンに「Texas Instruments」製品を見てみましょう。

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2020.07.28

栄光の FX-702P (江頭教授)

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 最近、仕事の都合上でプログラムをいじる機会が増えてきました。特にデータ整理の関係でExcelに組み込まれているVBAというBASIC言語の一種を使う事に。

BASICのループは for だっけ Do だっけ、

とか、

IF文はどう書くんだっけ、THEN GOTO、いや GO TO は良くない!

などなどとやっています。

 そんなこんなで思い出したのが、私がはじめて使ったプログラミング言語はBASICだったなあ、ということ。大学の3年生の時だったと思いますが「プロセス工学」という授業で化学プラントに関連した物質収支の問題を解くのに使ったのが最初でした。当時はまだパソコンも高価だった時代です。(いわゆる今のPCとは違ってメーカー各社が独自の規格で作成していました。)私は比較的手軽にプログラムが使える関数電卓の一種、プログラム電卓と言われていた CASIO の FX-702P を購入したのですが、その中に組み込まれていたのが簡易版のBASICでした。

 当時は名機との誉れ高かった FX-702P ですが、今のPCとは比較にならないほと非力でした。ユーザーメモリーが 1,680 Mbyte、じゃなくて kbyte でもなくて、 1,680 byte でした。プログラムに使える変数の数が限られていたのはもちろん、プログラムそのものも1000文字程度しか書けない、という代物です。実際、宿題で「10段の蒸留塔の物質収支を計算せよ」と出題されたのに配列変数の要素数が10個に限られていたので、9段の計算しかできませんでした。(各段の上下を取り扱うと一つ足りなくなるのです。)

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2020.07.27

映画「妖星ゴラス」(江頭教授)

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 以前このブログにて紹介した映画「地球最後の日」では地球が太陽系に侵入してきた遊星と衝突して破壊される、というまさに天文学的な確率の事象を想定したSF映画、いや、空想科学映画でした。地球を脱出するロケットを建造した人々は若者たちをそのロケットに乗せて破壊された後に地球の軌道にのこる遊星の伴星へと移住させる、というストーリー。その時、この映画のポイントは

この映画で中心的に描かれているのは宇宙船の建造には数百人のスタッフが必要だが、その宇宙船の乗れるのは数十名のみ、という状況です。

と書きました。

 その「地球最後の日」から11年後の1962年に作成された本作「妖星ゴラス」も、同様の状況を扱った日本映画です。

 「ゴジラ」をはじめとする特撮映画で有名な円谷英二氏が制作かかわった作品だけあって、特撮映像の大盤振る舞い。「地球最後の日」に比べると、これでもかとばかりに驚きの映像が次々と出てきます。もちろん、現在の目から見ると、というかおそらくは当時から見ても、見るからにミニチュアワークの映像であり、リアリティがあるとはとても言えません。しかし、少なくとも私にとっては、その映像のタッチに懐かしさを感じるとともに、それだけのミニチュアが作られたという圧倒的な作業量に対する感銘が合わさって、ワクワク、ドキドキの映像の連続でした。

 さて、天文学的な事象によって地球が破壊される、という危機に際して「地球最後の日」で描かれた上記のジレンマに対して「妖星ゴラス」ではあっと驚く解決策が示されています。(「続きをよむ」以降にはネタバレを含みます。)

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2020.07.24

クーラーを使うと温暖化が進むのか?その2(江頭教授)

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 前回のブログ記事では「クーラーを使うと温暖化が進むのか?」と題してクーラー一台分のエネルギー消費、約100Wの人工熱によって地球がどのくらい暖まるのかを概算してみました。計算過程は元の記事見てもらうとして、結果は2.47×10-13 ℃ 、「四兆分の1℃」でした。これは温室効果の影響を計算したものではなく、どちらかと言えばヒートアイランド現象(の一部)に類似した効果です。(ヒートプラネット現象とでも呼びましょうか。)

 さて、今回の記事では本命の?温暖化の効果を考えてみましょう。まず、100Wの電力を使用するとどのくらいのCO2が出るのか、というお話し。これは「電力のCO2原単位」と呼ばれる数値ですが、最近は「CO2排出係数」の方が通りが良い様子です。日本の電力会社はこの値を公開していて、たとえば東京電力はこちらのプレスリリースで「2018年度の当社のCO2排出係数は、0.455kg-CO2/kWhでした。」と報告しています。

 100Wの電力を一年間使ったとすると電力量はkWhに換算して 876.6 kWh となります。これと排出係数から年間のCO2排出量は約 400 kg-CO2 と計算されます。

 さらに、こちらの記事で紹介した IPCC の「1.5℃特別報告書」によれば、詳細な因果関係は別として「1GtCO2の二酸化炭素を排出すると 5×10-4℃ の温暖化が起こる」という関係が成り立っていると言います。

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2020.07.23

クーラーを使うと温暖化が進むのか?(江頭教授)

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 クーラーは部屋の中の熱を室外にくみ出す機械(ヒートポンプ)です。でもくみ出された熱が消える訳ではないから、地球が暖まってしまう...。なんて思ったことのある人、居ませんか?

 部屋からくみ出された熱は冷房を止めればすぐに部屋に戻ってきます。でも、部屋から吸い取る熱に比べて部屋の外に吐き出す熱の方が多い。これは熱力学の第二法則から避けられない現象です。最近のクーラーは効率(COPとかAPFとか言うべきですね)が良くなったとはいえ、部屋からくみ出された熱の6分の1程度の熱はクーラーを使ったことによって地球に吐き出された熱だということになります。

 では、この熱で地球はどのぐらい温暖化するのでしょうか。凄く小さいのは判っているのですが、はて具体的にはどのぐらい小さいのか、ちょっと計算してみようというのが今回のお題です。

 クーラー、というかエアコンを一台使っていると大体100W程度の電気エネルギーを消費するといいます。これが全部熱に変わって地球を暖めるとしましょう。

 以前の記事では地球の熱のバランスに新たに QH [W]の人工熱を加えると、その影響で変化する地球の温度 Δ

ΔT ≒ 1/4 T (QH/QS)

と評価されることを紹介しました。ここで T は地球の温度で 300K としましょう。QS は太陽から来るエネルギー でアルベドを考慮した値で 3.04×1016 Wです。QH = 100 W として値を計算すると

ΔT ≒ 2.47×10-13 K

となりました。

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2020.07.22

二酸化炭素排出量と温暖化(江頭教授)

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 大気中に排出された二酸化炭素によって温暖化が起こる。その因果関係について、以前は議論があったものの今は広く受け入れられているといって良いでしょう。ではもっと定量的に大気中にどの程度の二酸化炭素を排出したら何度温度が上がるのか、その関係を定量的に評価することはできないでしょうか。

 二酸化炭素の排出量から大気中と赤外線との相互作用を定式化し、地表と海のエネルギーと温度のやり取りもまた定式化し、それらの関係を適切扱いつつシミュレーションをする。もちろん、そのような試みは世界中で進められてきたのですが、どうにも複雑なモデルとなってしまいます。そのため、専門家以外がその内容について理解し、適切さを判断することは難しいでしょう。このような、いわゆる正攻法のアプローチではなく、もっと端的に温暖化の現状と将来予測を理解したい、そのような考えから導き出されたのが「二酸化炭素の排出量を横軸に、温暖化により温度変化を縦軸にとったグラフ」で考える、という方法です。

 以下に示した図はIPCCが作成した「Global Warming of 1.5 ºC」という特別報告書( Special Report )に示されているグラフです。この報告書(「1.5℃特別報告書」)は2018年の出版です。2015年のパリ協定で産業革命以後の温度上昇を2.0℃以内にとどめよう、できれば1.5℃に抑えよう、という決議がなされたわけですが、具体的にどの程度の温室効果ガスの削減を行ったらその目標が達成できるのか。それを具体的に示すことがこの報告書の目的だったのです。

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2020.07.21

エアコンの電力消費は大きいか小さいか (江頭教授)

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 前回の記事ではエアコンの「期間消費電力量」から典型的なエアコンの電力消費速度が大体100W程度になることを紹介しました。この100Wという数値を「電球一個分」と表現したのですが、はて、 この数字は大きいと見るべきなのか、それても小さいと考えるべきなのでしょうか。

 大きい小さいという議論であれば当然基準が必要です。○○と比べて大きいとか小さいとか、ですよね。

 どんな基準が良いでしょうか?大きな所で日本のエネルギ-消費量を基準としたらどうでしょう。資源エネルギー省の「エネルギー白書」2020年版の「第2部 エネルギー動向 第1章 国内エネルギー動向 第1節 エネルギー需給の概要」に付属の表にそのデータがあります。日本の2018年度の最終エネルギ-消費は 13.12 X 1018 Jだそうです。年間の値ですからエネルギーの消費速度に換算できますね。一年間つまり3155万秒で割り算すれば 4.16 X 1011 W となります。100Wはその41億分の1ということになります。

 うーん、まだ大きくて良く分からないですね。では日本人1人あたりに換算しましょう。日本の人口は総務省統計局のデータによれば2018年で1億2644万3千人だと言います。日本人1人あたりのエネルギ-消費速度は 3300 W/人 となります。100Wはその33分の一ですから、約3%です。だんだんイメージし易い数値になってきました。

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2020.07.20

エアコンの電気は「消費電力はわずか電球一個分」なのですが (江頭教授)

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 以前、こちらの記事でエアコンの性能としてAFPについて紹介しました。これは冷暖房に使われる仕事(電力)と実際に得られる冷暖房の効果(移動する熱量)の比率のことで、大きいほど「少ない仕事」で「大きな効果」が得られる、という数値でした。

 今回はもう一つの性能指標として、実際に冷暖房を行ったとき、どのくらいのエネルギー消費があるのか、端的に言うとどれくらい電気料金がかかるのか、という点に注目してみましょう。

 以下の図はPanasonicのクーラーについての商品紹介のページの一部ですが、AFPの数値と並んで機種毎の「期間消費電力量」が示されています。「日本冷凍空調工業会 」のサイトにこの用語の解説として

JIS C 9612:2013に基づくAPFから算出された期間消費電力量は、以下の条件による試算値です。実際には地域、気象条件、ご使用条件などにより電力量が変わります。(以下省略)

とある通り、東京の標準的な1年を基準として算出した年間消費電力の予測値ということですね。

 さて、表にある様に「期間消費電力量」は小さい部屋用のエアコンでは小さく、大きい部屋用のエアコンでは大きな値となっていますが、大体 1000 kWh 程度の値です。kWhというエネルギーの単位が使われてていますが、これは一年間での値ですから正確には kWh/y と書くべきです。h/y とついているのは不格好ですから単位を W に換算すると 114 W となります。

 昔、大型のテレビのコマーシャルで「消費電力はわずか電球一個分」というセリフがあったのを思い出します。100Wの電球を考えれば114 Wという値は「消費電力はわずか電球一個分」と言ってもギリギリセーフな値では。

 

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2020.07.17

新入生東京工科大キャンパスに現わる(江頭教授)

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 東京工科大学の八王子キャンパスでは7月1日から一部の授業が再開されています。応用化学科では学生実験がその対象で、二班に分かれて各班週一回の実験をがスタートしています。

 学生実験や一年生向けの授業担当の先生は例外として、私達教員が新入生諸君とコンタクトする機会が一番多かったのはフレッシャーズゼミという授業です。この授業はいわば大学におけるホームルームのような授業で、週1回少人数のグループに1人1人担当の教員がついて行います。今年は入学ガイダンスもこのグループで行ったので、学生諸君と一番付き合いが長いのは担当の教員なのですね。

 とはいえ、リアルに顔を合わせて話をすることは今までできませんでした。新入生諸君がせっかく大学に通う機会ができたので、これを機に対面のフレッシャーズゼミをやろう、ということに。学生実験の時間を少し融通してもらい、大きな教室でフレッシャーズゼミのグループ毎に集まって、そこに教員も参加する、という形態です。

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2020.07.16

COPからAPFへ(江頭教授)

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 部屋のクーラー、もうずいぶんと古くなったなぁ。省エネのためにも新しいエアコンに買い換えよう。そう思ってカタログを眺めていて気がつきました。COPの表示がなくなってAPFというものになっているのです。COPについてはこちら(冷房のCOP暖房のCOP)で紹介していますが、エアコンがどのくらいの電力でどのくらいの熱を吸収したり、放出したりしているか、という比率であり、エアコンの効率の指標です。

 APF(Annual Performance Factor )で日本語では通年エネルギー消費効率とよばれています。エアコンは本質的にはヒートポンプですから、仕事によって熱を温度の低い方から高い方に移動させるものです。その際、移動する熱と仕事との比率だ、という意味ではAPFもCOPも同じなのですが、APFは「通年」とついている様に年間を通じての値、という意味があります。一年間を通じて標準的な使い方をしたときの平均のCOPということですね。

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2020.07.15

発熱する直線周りの温度分布(江頭教授)

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 発熱する点は周りに熱を放出しますが、その密度は距離の二乗に反比例する、これは逆二乗則の一つの例なのですが、そのとき熱の流れのポテンシャルである温度は距離の一乗に反比例します。これは前回の記事で紹介した内容でした。

 さて、発熱する点がそうなら、発熱する線ならどうなるのでしょうか。熱量 Q [W] で発熱する...、おっと直線からの発熱だとしたらこう言うべきでしょう、単位長さ当たりの発熱量 q [W/m] で発熱するワイヤー状のものが均一な媒質の中にあったとします。ワイヤーは無限に長く(あるいは、充分に長く)、周囲の温度分布はワイヤーの長手方向には均一だと見なせるものとしましょう。

 発熱するワイヤーの周りに長さ L [m] で半径 r の円筒状の面を考えると、その面(面積は 2πrL を通過する熱量は qL [W] であり、r によらず常に一定なので、

 

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という関係式を得ます。整理すると

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発熱する点の場合は逆二乗則だったのですが、直線状の熱源の場合は逆一乗則になるのですね。

 ではポテンシャルである温度 T の分布はどうなるのでしょうか。逆二乗則でのポテンシャルが逆一乗だったのだから、逆一乗則に対応するポテンシャルは「逆0乗」なのでしょうか。

 いえいえ、上記の微分方程式を解くと -ln( r ) に比例していることが示されます。あるいは ln(1/r) でも同じですね。

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2020.07.14

逆二乗則とポテンシャル(江頭教授)

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 前回の記事で「太陽定数 S は地球と太陽の間の距離 r の2乗に反比例している」と説明しました。この「2乗に反比例」という事例は物理の中ではよく見られる現象で「逆二乗則」とよばれたりします。

 前回の説明では「太陽から一定のエネルギーが放出されていて」そのエネルギーが地球の軌道まで届くまでに広がってゆく。でも、「地球と太陽との距離を半径とする巨大な球殻」を考えて、その内側にくる太陽のエネルギーをすべて集めれば、ちょうど太陽から放出されていたエネルギーに等しい。この関係は別に地球の軌道で特別に成り立つわけではなく、どんな距離 r についても成立するので、距離 におけるエネルギーの密度に巨大な球殻の面積 4πr2 をかけた値は常に一定となる。逆に言えばエネルギー密度は 4πr2 に反比例するわけです。4π は定数なので、本質的なのは r2 反比例という点、つまり逆二乗に比例する、という点ですから、「逆二乗則」と言うのですね。

 さて、太陽から放出されるエネルギーは電磁波、要するに光ですから、光について「逆二乗則」が成立することが分かります。輻射伝熱だと言い換えれば、輻射伝熱でも同じということになります。

 他にも逆二乗則に従うものはいろいろあります。化学物質の移動などもその一例です。重力も逆二乗則に従うのですが、これは一体何が放出されているのか、不思議ですよね。

 さて、同じ伝熱でも真空中ではないケースではどうでしょうか。この場合は伝導伝熱、つまり温度の高い方から低い方に向かって熱が伝わる現象が対象です。この場合も、途中でエネルギーが無くなっています訳ではありませんから、もちろん「逆二乗則」が成立します。このケースをもう少し詳しく考えてみましょう。

 均一な媒体の中の原点に大きさゼロの熱源が存在していて、Q[W]で発熱していたとすると、熱源からの距離 r での熱の流れは「温度 Tr で微分した値にマイナスをつけたもの」(熱が低い方に流れるのでマイナスがつきます)に「熱伝導度 k をかけた値」に等しくなります。熱源の周りが均一だと考えているので、r が同じならどの方向でも同じ熱の流れとなる。ですから、これに 4πr2 をかければ発熱量Qに等しい。この関係は以下の式で表されます。

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これを変形して

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という微分方程式が得られます。

 熱源から無限に離れた距離の温度をTとすると

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から、以下の結果を得ます。

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2020.07.13

究極の温暖化対策「地球の軌道変更を要請します」(江頭教授)

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 以前の記事で(その1その2)地球の温度が太陽からやってくるエネルギーと宇宙に出て行くエネルギーのバランスで決まっていることを紹介しました。温暖化は人間活動が原因となって宇宙にエネルギ-が出て行きにくくなって起こる問題で、いままでの温暖化対策ではこの変化をいかに小さくするか、に注目していました。

 でも、バランスを決めているのは出て行く部分だけでなく、やってくる部分の影響も大きいはず。というわけで太陽から地球にやってくるエネルギーを小さくする、と考えてみたらどうでしょうか。

 太陽から地球にやってくるエネルギーは(太陽に真向かいの面積を基準として)1367 Wm -2です。半径が地球の公転軌道の半径(1.5億km。地球の公転軌道は本当は楕円なので年間では多少変動します。)というか太陽と地球との距離と一致する巨大な球殻を考えると、その内面にやってくるエネルギーは太陽の放出する全エネルギーに等しいはず。その値を Q[W] とすると

Q = 4πr2S

となります。ここで 地球の公転軌道の半径、Sは太陽定数です。実際に計算すると

4×3.14×(1.5×1011m) 2 × 1367 Wm -2 = 3.86×1026W

です。

 さて、このQは(多少の変動はあるにしても)一定だと考えられるので最初の式は S 、つまり地球に軌道半径と太陽定数の関係を与えているとも考えられます。

S = Q /(4πr2)

つまり太陽定数 S は地球と太陽の間の距離 r の2乗に反比例しているわけですね。

 地球の軌道半径 r が Δr だけ変化すると太陽定数はどの程度変化するのでしょうか。-2乗に比例するので Δrr に比べて充分に小さい場合太陽定数の変化 ΔS

( ΔS/S ) ≒ -2 (Δr/r )

となります。

 

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2020.07.10

Excelの「並び替え」では、並べ替えられるセルの中に書いた数式で自分が存在するシートに所属するセルをシート名を含めた形で参照すると$記号がなくても相対参照ではなく絶対参照として扱われるって知ってましたか?(江頭教授)

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 今回のタイトル、あなたはどう感じましたか?

「まじか!マイクロソフト最低だな!」

でしょうか。それとも

「えっ、当たり前じゃん」

でしょうか。

 私がこれに気がついた時には、どちらかと言えば前者でした。でも大半の人は「何のことやら」だと思います。

 と、いうことで今回のタイトルについて、まずは説明から。

 具体例で説明しましょう。まずはエクセルに適当な表を作ってみます。A行に数字を。B行には適当な名前をいれておきました。

 で、C行はB行の内容を引用しています。下の図の右上の窓の部分、選択されたセル「C1」の内容が表示されるので、「C1」には「B1」をそのまま引用していることが分かると思います。

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 さて、D行にもB行の内容を引用しましょう。ここで引用の仕方を変えます。「D1」には「=Sheet1!B1」と入力してありますが、「Sheet1」はこの内容が記載されているワークシート(タブといった方が分かる人もいるかも)のこと。「B1」というセルですが、同じSheet1のタブにあるB1ですよ、ということですね。

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ではこれを並び替えてみましょう。A1からD3までを選択して、Excelのメニューの「データ」から「並び替え」を選択。並べ替える順番を決めるのはA行の内容で、降順(3,2,1)に並び替えることにします。

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さて、上記のダイアログの「OK」ボタンを押すと...

 

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2020.07.09

今度は暖房の成績係数(COP)の話(江頭教授)

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 以前こちらの記事(「COP」と言えば、何でしょう?)でヒートポンプの成績係数、すなわちCOPという言葉を紹介しました。COPは実は熱力学的な限界があることを冷房のCOPを例にとって紹介したのですが、今回は暖房について考えてみましょう。

 昔は「クーラー」と言ったものですが、最近は「エアコン」と呼ばれます。「クーラー」は部屋をクールにするもの、という意味なので、部屋のうちから外へ熱を運び出すヒートポンプの意味が強いですね。それに比べると「エアコン」は空気(エア)の状態(コンディション)を整えるもの、というより普遍的な意味があるのでしょう。クーラーとの大きな違いは暖房にも使えるところ。クーラーのヒートポンプを逆回転させてヒーターとしても用いるわけです。

 エアコンはクーラーの逆?ならヒートポンプの逆で熱機関では?いえいえ、夏と冬で部屋の内外の温度が逆転します。冬場は外が寒く、室内は暖かい。温度の低い外から熱を集めて温度の高い室内へ移動させるわけですね。

 さて、冷房の場合と同じくカルノー効率(理想効率)から到達可能なCOPを求めてみましょう。

 室温が Ti 、室外の温度が To だとすると、夏と冬とで大小関係は逆転。  Ti > To となります。供給電力を W 、熱としては室外から吸収した熱室内の吸い上げた熱 Qo と室内に運び込んだ熱 Qi とがあります。部屋への熱の出入りを基準にCOPを定義すれは Qi/W がCOPになり、これは冷房の時と同じです。

 熱の流れる方向が逆転したのでエネルギー保存の法則は

WQi - Qo 

となります。

 可逆性を保証する Qi / Ti = Qo / To は同じ。これらを総合すると暖房の場合は

COP = Ti / (Ti - To)

です。分母が温度差は冷房と逆転しているのは温度の大小関係の問題ですね。

 では、この理想の暖房についてもCOP値を計算してみましょう。

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2020.07.08

「花金」という言葉を思い出しました(江頭教授)

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 7月に入って本学の八王子キャンパスが久方ぶりにオープンに。我々教員もキャンパスに通勤できるようになりました。学生諸君も学生実験など限られた授業とはいえ、大学に来て授業を受けることができるようになりました。

 さて、再開したキャンパス生活が始まって一週間。まだまだ昔の状態に戻っておらず、例年に比べるとフル稼働とは行きません。それでも第一の感想は「疲れた!」です。良くこんなハードワークに耐えていたなあ、などなど。

 在宅勤務が始まったときも「疲れた」という感想だったので辻褄が合わないですね。これは慣れの問題なのでしょうか。勤務形態が変わると適応するのに時間がかかるのかも知れません。あと、天気の問題もありそうです。在宅勤務の期間は天気が多少悪くても気にならなかったのですが、この一週間は雨が降るだけで気が重い。在宅勤務の備えて家に持っていた品々を大学に持ち帰らなくてはならないので荷物も重いです。

 あっ、ひとつ良いこともありました。久しぶりに「金曜日が来てうれしい」と感じられたこと。在宅勤務では一週間にメリハリがなくなっていて、月曜日が憂鬱でない代わりに金曜日にも何の感慨もありませんでした。でも今週は違います。金曜日になると心が浮き立つ感覚。あぁ、そうそう、以前は金曜日を待ち望んでいたものです。

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2020.07.07

冷房の成績係数(COP)とカルノー効率の話(江頭教授)

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 先日の記事(「COP」と言えば、何でしょう?)では冷房機器など、ヒートポンプを応用した製品についての Coefficient operformance つまり「成績係数」について紹介しました。COPとはヒートポンプに供給した電力に対して、どの程度の熱が輸送されるのか、という比率のことでした。
 ヒートポンプは熱を仕事に変換する装置、要するに熱機関の逆課程を行うプロセスです。熱機関の理想効率はカルノー効率と呼ばれますが、これは可逆な熱機関の効率でもあります。熱機関の逆のプロセスであるヒートポンプも、理想的な状態なら可逆であるはず。可逆な熱機関と可逆なヒートポンプは実は入れ替わり可能なものですからヒートポンプの理想効率もまた、カルノー効率で表すことができるはずです。

 例えば冷房用のヒートポンプ、すなわちクーラーの熱効率について考えてみましょう。温度 Ti の室内から Qi の熱を吸い出すヒートポンプ(要するにクーラー)があったとします。このヒートポンプに供給される仕事(電力)を W とすると COP は Qi/W のことです。室外の温度が温度 To だとすると、夏場なので外の方が暑いですから  Ti < To となりますね。

 室外に放出される熱を Qo としましょう。 Qi と Qo は等しい?いえいえ、外から仕事 W が供給されていることを思い出してください。クーラーは室内機と室外機に分かれているので混乱しがちですが、両者を一体と考えてみましょう。クーラー全体に入っている熱は Qi 、出て行く熱は Qo でした。両者の差が仕事 W になります。これはエネルギー保存の法則から当然の結果です。要するに

W = Qo - Q

となります。

 カルノー効率の導出を思い出してください。可逆であることからエントロピーが保存しますのから、Qi / Ti = Qo / To が成立します。この関係と先の W の式、そして COP の定義式を使って

COP = Ti / (To - Ti)

という関係を導くことができます。カルノー効率では温度差が分子に来ていますがCOPでは逆になっています。またヒートポンプなので低熱源の温度( Ti )が基準となっていますが、基本的には同じ関係を表すのもです。

 さて、この理想のクーラーの性能、すなわちCOPはどの程度になるのでしょうか?

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2020.07.06

「緊急用お知らせサイト」のこと(江頭教授)

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 今年度から始まったオンラインの授業、本学の場合は全学生がノートPCを持っている事が前提となっているため、比較的順調に開始することができたと思います。でも、オンライン授業の基本インフラはネットのアクセス。もしサーバーに不具合があったら…。そう考えると不安になりますよね。

 本学のサーバー類も基本的にはすべてクラウド化されているそうで障害には強いと言います。それでも何らかのトラブルがあったらどうするのか。普通の災害、台風や大雨で大学のキャンパスでの授業でも中止になることはあるのですが、そんな場合は本学のWEBサイトから情報を発信します。でも、サーバーのトラブルなら、まさにそのWEBサイトに問題が発生するわけですから、別の連絡方法が必要になります。

 と言うわけで、本学には「緊急用お知らせサイト」というものが準備されています。

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2020.07.03

大学でマスクを買ってみた!(江頭教授)

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 7月1日から東京工科大学八王子キャンパスが再開されました。でも完全に今まで通りではありません。その代表格が「マスク必須」という条件。消毒液は大学が準備するのですがマスクは各自調達ということに。確かに、マスクのように直接身につけて個人差が好みに大きく影響するものを一律に準備するのは難しいですよね。

 とは言え、マスクを忘れたらどうするの、とか、特段好みはないので普通ので良いんだけど、という人のためでしょうか。八王子キャンパスのFOODS FUUという建物にある有隣堂の売店でマスクを売り出す、という話を聞いて私も買ってみることにしました。

 本学のキャンパスは4月に入ってすぐに閉鎖され、我々教員は在宅勤務となりました。それ以降、家から出たり電車に乗ったりする機会がぐんと減ったので、そんなにマスクを必要としていませんでした。マスク不足で世の中が騒然としていた時も手元にマスクが残っていたので、実は今回のコロナウイルス騒ぎになってからはじめて買うマスクが大学の売店のマスクということになります。

 で、写真がそのマスクです。ものは普通ですが、パッケージからして、まあ中華風ですね。

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2020.07.02

「COP」と言えば、何でしょう?(江頭教授)

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 何も考えないで COP と検索すると”Conference of Parties”の略となっていますが、すぐ下には国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)・京都議定書締約国会合(CMP)・パリ協定締約国会合(CMA)」の解説へのリンクがあります。日本で「COPなんとか(数字)」と言えばやはり温暖化対策について話し合われる「国連気候変動枠組条約締約国会議」つまり「UNFCCCのCOP」ということになるのでしょう。有名なのはCOP3。京都議定書という名前にある様に京都で開催された3回目のUNFCCCのCOPですね。

 実はCOPは温暖化以外の条約についても行われています。実際、2010年にCOP10を名古屋でやる、というニュースを聞いて「あれ今頃10なの?」と不審に思ったら「生物多様性条約締約国会議」のCOP10だった、ということがありました。ちなみに2010年のUNFCCCのCOPは「メキシコ・カンクン会議」と呼ばれるCOP16です。

 別のCOPもあります。エネルギー技術に関してCOPと言えば冷房機器などヒートポンプの「Coefficient of performance」つまり「成績係数」のことでしょう。ヒートポンプを動かすためには電力など仕事が必要ですが、それによって運ばれる熱はどのくらいなのか。仕事も熱もエネルギーの形態なので両者は同じ単位ですから「運ばれる熱」÷「使われた仕事」の比率は無次元の数値となります。これが成績係数=COPです。


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2020.07.01

日本の温室効果ガスの排出量(2018年度版)(江頭教授)

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 最大の環境問題である地球温暖化、その原因物質である二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスはだれがどのくらい出しているのでしょうか。温室効果ガス削減のための基本的な指標となるこのデータ、日本国内での発生量については温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)がとりまとめて毎年発表しています。最新版はこの4月に発表された2018年度のデータ。少しタイムラグがあり、一昨年度のデータを昨年度のうちに整理して今年度発表する、というながれになっています。

 さて、実はこの記事、昨年もほぼ同じ書き出しで書いた「日本の温室効果ガスの排出量(2017年度版)」のアップデート版ですが、その2017年度版の記事も2016年度版2015年度版2014年度版のアップデートなので、同じテーマで5回目の記事となります。さて、今回の結果は

2018年度の温室効果ガスの総排出量は12億4,000万トン(二酸化炭素(CO2)換算)で、前年度比3.9%減(2013年度比12.0%減、2005年度比10.2%減)でした。

となっています。2017年度版では前年比1.2%減、その前の2016年度版も1.2%減、2.9%減、3.1%減と続いて、直近のピークである2013年からとうとう5年連続の減少となりました。昨年発表された2018年の排出量がリーマンショック後の2009年の値に並んだ、と言われたのですがなんと今回は「排出量を算定している1990年以降で最少」という結果になったといいます。これだけ減少傾向が続くところをみると、日本社会が温室効果ガスを出さない社会に向けて構造的な変化を起こしていると言ってよいのではないでしょうか。

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