日本の温室効果ガスの排出量(2018年度版)(江頭教授)
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最大の環境問題である地球温暖化、その原因物質である二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスはだれがどのくらい出しているのでしょうか。温室効果ガス削減のための基本的な指標となるこのデータ、日本国内での発生量については温室効果ガスインベントリオフィス(GIO)がとりまとめて毎年発表しています。最新版はこの4月に発表された2018年度のデータ。少しタイムラグがあり、一昨年度のデータを昨年度のうちに整理して今年度発表する、というながれになっています。
さて、実はこの記事、昨年もほぼ同じ書き出しで書いた「日本の温室効果ガスの排出量(2017年度版)」のアップデート版ですが、その2017年度版の記事も2016年度版、2015年度版、2014年度版のアップデートなので、同じテーマで5回目の記事となります。さて、今回の結果は
2018年度の温室効果ガスの総排出量は12億4,000万トン(二酸化炭素(CO2)換算)で、前年度比3.9%減(2013年度比12.0%減、2005年度比10.2%減)でした。
となっています。2017年度版では前年比1.2%減、その前の2016年度版も1.2%減、2.9%減、3.1%減と続いて、直近のピークである2013年からとうとう5年連続の減少となりました。昨年発表された2018年の排出量がリーマンショック後の2009年の値に並んだ、と言われたのですがなんと今回は「排出量を算定している1990年以降で最少」という結果になったといいます。これだけ減少傾向が続くところをみると、日本社会が温室効果ガスを出さない社会に向けて構造的な変化を起こしていると言ってよいのではないでしょうか。
さて、その構造変化とは何か。発表資料では温室効果ガスの減少は
電力の低炭素化に伴う電力由来のCO2排出量の減少や、エネルギー消費量の減少(省エネ、暖冬等)により、エネルギー起源のCO2排出量が減少したこと等が挙げられる
としています。この中の「暖冬」については前年度2017年度との比較の話でしょう。確かに今回の2017年から2018年の減少率(3.9%)は、その前の2016年から2017年の減少率(1.2%)にくらべてかなり大きくなっていますが、減少傾向自体は5年間続いているので暖冬以外の要因が大きく、省エネや発電の効率化によるエネルギー起源のCO2排出量削減の効果が大きいと思われます。
人口の減少はさておき、1人あたりの使用エネルギーの減少、エネルギー当たりのCO2排出量の減少が重なって全体としてCO2発生量が減少を続けているのですが、それでもGDPは増加して(少なくとも減少せずに)いる。そう考えると後々、この5年間は日本の社会の静かな変革期だったと言われるようになるかも知れません。新型コロナウイルスの感染拡大が日本の温室効果ガス排出量に与えた影響が確定的になる2022年から振り返るしたら、さて、この時代はどのようにみえるのでしょうか。
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