発熱する直線周りの温度分布(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
発熱する点は周りに熱を放出しますが、その密度は距離の二乗に反比例する、これは逆二乗則の一つの例なのですが、そのとき熱の流れのポテンシャルである温度は距離の一乗に反比例します。これは前回の記事で紹介した内容でした。
さて、発熱する点がそうなら、発熱する線ならどうなるのでしょうか。熱量 Q [W] で発熱する...、おっと直線からの発熱だとしたらこう言うべきでしょう、単位長さ当たりの発熱量 q [W/m] で発熱するワイヤー状のものが均一な媒質の中にあったとします。ワイヤーは無限に長く(あるいは、充分に長く)、周囲の温度分布はワイヤーの長手方向には均一だと見なせるものとしましょう。
発熱するワイヤーの周りに長さ L [m] で半径 r の円筒状の面を考えると、その面(面積は 2πrL を通過する熱量は qL [W] であり、r によらず常に一定なので、
という関係式を得ます。整理すると
発熱する点の場合は逆二乗則だったのですが、直線状の熱源の場合は逆一乗則になるのですね。
ではポテンシャルである温度 T の分布はどうなるのでしょうか。逆二乗則でのポテンシャルが逆一乗だったのだから、逆一乗則に対応するポテンシャルは「逆0乗」なのでしょうか。
いえいえ、上記の微分方程式を解くと -ln( r ) に比例していることが示されます。あるいは ln(1/r) でも同じですね。
図は -ln( r ) の関数をグラフにしたものです。これは 1/r と同じく r が 0 に近づくほど値が無限に大きくなっていき、0 での値が定義されない、という「不自然」な特徴を示しますが、これは太さ 0 のワイヤーという不自然な上級が仮定されるからですね。
でも -ln( r ) という関数形にはもっと大きな不自然さがあります。 1/r とは異なり、 r が無限に大きくなっても 一定の値にならず無限に小さく(マイナス方向に大きく)なってしまうのです。(上記の微分方程式を「無限に離れたところの温度」を境界条件として解くことができないのはこれが理由です。)
これはどうしたことでしょうか? この議論のスタートの時点で「無限に長い、あるいは充分に長いワイヤー」という仮定をおいていますが、そのあとで「無限に離れたところ」の温度を考えようとしています。「無限に離れたところ」からみてなおかつ「無限に長い、あるいは充分に長いワイヤー」というものはあり得るのか。少し考えるとこの議論の問題点がわかると思います。
少なくとも地球の中にあるものは太陽系スケールで見れば「ワイヤー」というよりは「点」に近いはずですからね。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)