クーラーを使うと温暖化が進むのか?(江頭教授)
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クーラーは部屋の中の熱を室外にくみ出す機械(ヒートポンプ)です。でもくみ出された熱が消える訳ではないから、地球が暖まってしまう...。なんて思ったことのある人、居ませんか?
部屋からくみ出された熱は冷房を止めればすぐに部屋に戻ってきます。でも、部屋から吸い取る熱に比べて部屋の外に吐き出す熱の方が多い。これは熱力学の第二法則から避けられない現象です。最近のクーラーは効率(COPとかAPFとか言うべきですね)が良くなったとはいえ、部屋からくみ出された熱の6分の1程度の熱はクーラーを使ったことによって地球に吐き出された熱だということになります。
では、この熱で地球はどのぐらい温暖化するのでしょうか。凄く小さいのは判っているのですが、はて具体的にはどのぐらい小さいのか、ちょっと計算してみようというのが今回のお題です。
クーラー、というかエアコンを一台使っていると大体100W程度の電気エネルギーを消費するといいます。これが全部熱に変わって地球を暖めるとしましょう。
以前の記事では地球の熱のバランスに新たに QH [W]の人工熱を加えると、その影響で変化する地球の温度 ΔT は
ΔT ≒ 1/4 T (QH/QS)
と評価されることを紹介しました。ここで T は地球の温度で 300K としましょう。QS は太陽から来るエネルギー でアルベドを考慮した値で 3.04×1016 Wです。QH = 100 W として値を計算すると
ΔT ≒ 2.47×10-13 K
となりました。
要するに「四兆分の1℃」。こどもの口げんかみたいに「すごーく小さい」値だということが分かると思います。例えば世界の人口が100億人になって皆が一斉にクーラーを使ったとしてもまだ「四百分の1℃」です。
なお、今回の計算ではクーラーで使用された電力が全て地球を暖める、つまり地球の熱収支に対してプラスされる、と考えていますが、これは電力の起源が化石燃料か原子力だと仮定していることに対応しています。太陽電池などの再生可能エネルギーや水力発電などで得られた電力を使う場合は「新たに加わった熱」にはなりません。とはいえ、現在の電源構成では化石燃料と原子力が全体の84%を占めていますから、この計算はまあ妥当だと考えて良いでしょう。
それより重要なのは、もし世界中の人が1人400台のクーラーをもつ時代がやってきて1℃の気温上昇が起こったとしても、この熱バランスの影響だけならばクーラーの使用を中止してすぐに気温を元にもどす事ができる、という点です。温室効果が無かったとしたら、どんなに気楽でしょうね。
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