エアコンの電力消費は大きいか小さいか (江頭教授)
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前回の記事ではエアコンの「期間消費電力量」から典型的なエアコンの電力消費速度が大体100W程度になることを紹介しました。この100Wという数値を「電球一個分」と表現したのですが、はて、 この数字は大きいと見るべきなのか、それても小さいと考えるべきなのでしょうか。
大きい小さいという議論であれば当然基準が必要です。○○と比べて大きいとか小さいとか、ですよね。
どんな基準が良いでしょうか?大きな所で日本のエネルギ-消費量を基準としたらどうでしょう。資源エネルギー省の「エネルギー白書」2020年版の「第2部 エネルギー動向 第1章 国内エネルギー動向 第1節 エネルギー需給の概要」に付属の表にそのデータがあります。日本の2018年度の最終エネルギ-消費は 13.12 X 1018 Jだそうです。年間の値ですからエネルギーの消費速度に換算できますね。一年間つまり3155万秒で割り算すれば 4.16 X 1011 W となります。100Wはその41億分の1ということになります。
うーん、まだ大きくて良く分からないですね。では日本人1人あたりに換算しましょう。日本の人口は総務省統計局のデータによれば2018年で1億2644万3千人だと言います。日本人1人あたりのエネルギ-消費速度は 3300 W/人 となります。100Wはその33分の一ですから、約3%です。だんだんイメージし易い数値になってきました。
先にふれたエネルギ-白書には部門別のエネルギー消費も載っています。産業部門が約半分、運輸部門がそのまた半分。最後の四分の一を家庭と業務部門で分け合っている、というのが日本のエネルギー消費の構造なのですが2018年も同様の傾向です。家庭部門のエネルギー消費は全体の 14.0 % となったそうです。
エアコンを家で使うと考えて家庭部門の数値との比較を考えましょう。1人あたりの家庭部門のエネルギー消費は約 460 Wです。これと比べると 100 W という数字は 22% となりますから、かなり大きいと感じられるのではないでしょうか。
実は「エネルギー白書」には「世帯当たりのエネルギー消費原単位と用途別エネルギー消費の推移」というグラフが載っています。それによれば暖房が25.4%、冷房は3.2%のエネルギー消費であるとのこと。両者を合わせて28.5%となり、先に計算した比率とほぼ同じ程度の値となります。
さて、最初の問に戻りましょう。今の議論からすれば「電球一個分」の消費電力 100W という数値はかなり大きいと考えるべきです。何しろ私達は電球4~5個分のエネルギーで家庭生活を営んでいるのですからね。
最後に一点だけ。普通電球は昼間は使わないですし、夜寝ている間も消していますが、ここでの 100W は一年三百六十五日二十四時間つけっぱなしでの値だ、という事を指摘しておきましょう。「電球一個分」というとなんとなく小さな値の感じられるのはこのような使い方を知らず知らずのうちに想定するからかも知れません。
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