逆二乗則とポテンシャル(江頭教授)
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前回の記事で「太陽定数 S は地球と太陽の間の距離 r の2乗に反比例している」と説明しました。この「2乗に反比例」という事例は物理の中ではよく見られる現象で「逆二乗則」とよばれたりします。
前回の説明では「太陽から一定のエネルギーが放出されていて」そのエネルギーが地球の軌道まで届くまでに広がってゆく。でも、「地球と太陽との距離を半径とする巨大な球殻」を考えて、その内側にくる太陽のエネルギーをすべて集めれば、ちょうど太陽から放出されていたエネルギーに等しい。この関係は別に地球の軌道で特別に成り立つわけではなく、どんな距離 r についても成立するので、距離 r におけるエネルギーの密度に巨大な球殻の面積 4πr2 をかけた値は常に一定となる。逆に言えばエネルギー密度は 4πr2 に反比例するわけです。4π は定数なので、本質的なのは r2 反比例という点、つまり逆二乗に比例する、という点ですから、「逆二乗則」と言うのですね。
さて、太陽から放出されるエネルギーは電磁波、要するに光ですから、光について「逆二乗則」が成立することが分かります。輻射伝熱だと言い換えれば、輻射伝熱でも同じということになります。
他にも逆二乗則に従うものはいろいろあります。化学物質の移動などもその一例です。重力も逆二乗則に従うのですが、これは一体何が放出されているのか、不思議ですよね。
さて、同じ伝熱でも真空中ではないケースではどうでしょうか。この場合は伝導伝熱、つまり温度の高い方から低い方に向かって熱が伝わる現象が対象です。この場合も、途中でエネルギーが無くなっています訳ではありませんから、もちろん「逆二乗則」が成立します。このケースをもう少し詳しく考えてみましょう。
均一な媒体の中の原点に大きさゼロの熱源が存在していて、Q[W]で発熱していたとすると、熱源からの距離 r での熱の流れは「温度 T を r で微分した値にマイナスをつけたもの」(熱が低い方に流れるのでマイナスがつきます)に「熱伝導度 k をかけた値」に等しくなります。熱源の周りが均一だと考えているので、r が同じならどの方向でも同じ熱の流れとなる。ですから、これに 4πr2 をかければ発熱量Qに等しい。この関係は以下の式で表されます。
これを変形して
という微分方程式が得られます。
熱源から無限に離れた距離の温度をT∞とすると
から、以下の結果を得ます。
伝導伝熱の場合、熱の流れに対して「逆二乗則」が成立していると、温度に対しては(こんな言い方はしませんが)「逆一乗則」が成り立っているのですね。
さて、以下は熱源 Q を含む平面上での温度分布を図示したグラフです。中心部から均等に温度が下がってゆくのですが、この図では肝心の熱源 Q の存在する場所のデータが書かれていません。
これはグラフのレイアウト上の問題ではありません。熱源 Q の温度を求めようとしても、 r = 0 となるので 1/r は計算できないのです。
熱の流れに対する温度をポテンシャルと呼び「ポテンシャルの勾配に応じて流れが生じる」という言い方をするのですが、逆二乗則に従う流れに対するポテンシャルは、実は流れの発生源では値を定めることができません。
もちろん、別に物理学の理論に欠陥がある、という訳ではありません。これは「大きさゼロの熱源」という仮定の「大きさゼロ」という部分が厳密には成立しない仮定だ、ということなのですね。
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