二酸化炭素排出量と温暖化(江頭教授)
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大気中に排出された二酸化炭素によって温暖化が起こる。その因果関係について、以前は議論があったものの今は広く受け入れられているといって良いでしょう。ではもっと定量的に大気中にどの程度の二酸化炭素を排出したら何度温度が上がるのか、その関係を定量的に評価することはできないでしょうか。
二酸化炭素の排出量から大気中と赤外線との相互作用を定式化し、地表と海のエネルギーと温度のやり取りもまた定式化し、それらの関係を適切扱いつつシミュレーションをする。もちろん、そのような試みは世界中で進められてきたのですが、どうにも複雑なモデルとなってしまいます。そのため、専門家以外がその内容について理解し、適切さを判断することは難しいでしょう。このような、いわゆる正攻法のアプローチではなく、もっと端的に温暖化の現状と将来予測を理解したい、そのような考えから導き出されたのが「二酸化炭素の排出量を横軸に、温暖化により温度変化を縦軸にとったグラフ」で考える、という方法です。
以下に示した図はIPCCが作成した「Global Warming of 1.5 ºC」という特別報告書( Special Report )に示されているグラフです。この報告書(「1.5℃特別報告書」)は2018年の出版です。2015年のパリ協定で産業革命以後の温度上昇を2.0℃以内にとどめよう、できれば1.5℃に抑えよう、という決議がなされたわけですが、具体的にどの程度の温室効果ガスの削減を行ったらその目標が達成できるのか。それを具体的に示すことがこの報告書の目的だったのです。
このグラフはなんとなく斜めの直線のように見えますから、二酸化炭素を排出するほど温暖化がすすむ、という関係をシンプルに表していると言えるでしょう。ただ、グラフをよく見ると黒と赤の線と、ほかに青と紫の線があるのはこの関係が不確実性を含んでいることを端的に表しています。
黒と赤の線はAR5、つまり2013年に公開されたIPCCの「第5次報告書」の結果をプロットしたもの。そして青と紫の線はその後研究の進展を反映させた結果のプロットです。両者を比較して、将来予測にずれがあるのは当然ですが、過去のデータにもさかのぼって差異がでています。この差異が研究の進展を反映させた結果なわけで、これも温暖化問題の複雑さ、分かりにくさの反映だといえるでしょう。
では二酸化炭素排出量と温暖化の関係を青と紫の線に注目して読みとると2000GtCO2に対して1℃の温度上昇が起こっていることが分かります。あるいは1GtCO2の二酸化炭素を排出すると 5×10-4℃の温度上昇となります。
例えば日本の2018年度の温室効果ガスの排出量は二酸化炭素換算で12億4,000万トンでした。これは 1.24 GtCO2のに相当し、温度の上昇は 6.2×10-4 ℃です。これを大きいと考えるか小さいと考えるかはさておき、この様に定量的に把握できるのはありがたいことですね。
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