« クーラーを使うと温暖化が進むのか?(江頭教授) | トップページ | 映画「妖星ゴラス」(江頭教授) »

クーラーを使うと温暖化が進むのか?その2(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 前回のブログ記事では「クーラーを使うと温暖化が進むのか?」と題してクーラー一台分のエネルギー消費、約100Wの人工熱によって地球がどのくらい暖まるのかを概算してみました。計算過程は元の記事見てもらうとして、結果は2.47×10-13 ℃ 、「四兆分の1℃」でした。これは温室効果の影響を計算したものではなく、どちらかと言えばヒートアイランド現象(の一部)に類似した効果です。(ヒートプラネット現象とでも呼びましょうか。)

 さて、今回の記事では本命の?温暖化の効果を考えてみましょう。まず、100Wの電力を使用するとどのくらいのCO2が出るのか、というお話し。これは「電力のCO2原単位」と呼ばれる数値ですが、最近は「CO2排出係数」の方が通りが良い様子です。日本の電力会社はこの値を公開していて、たとえば東京電力はこちらのプレスリリースで「2018年度の当社のCO2排出係数は、0.455kg-CO2/kWhでした。」と報告しています。

 100Wの電力を一年間使ったとすると電力量はkWhに換算して 876.6 kWh となります。これと排出係数から年間のCO2排出量は約 400 kg-CO2 と計算されます。

 さらに、こちらの記事で紹介した IPCC の「1.5℃特別報告書」によれば、詳細な因果関係は別として「1GtCO2の二酸化炭素を排出すると 5×10-4℃ の温暖化が起こる」という関係が成り立っていると言います。

259environmentillustration

 400 kg-CO2 から地球の温度上昇を計算してみましょう。400kg は 0.4 t ですから、

0.4t-CO2 ×(5×10-4℃ / 1×109t-CO2) = 2.0×10-13 ℃

となります。

 奇しくも、先の「ヒートプラネット」現象と同じ程度の数値となりましたが、これは偶然です。というか、この計算は「100Wを一年間使い続けたら」という計算であり、本当は一年当たりの温度上昇、あるいは温度上昇速度なので 2.0×10-13 ℃/y と表現すべき値であり、そもそも単位が違うのです。

 前回の記事では

例えば世界の人口が100億人になって皆が一斉にクーラーを使ったとしてもまだ「四百分の1℃」です。

そして、

もし世界中の人が1人400台のクーラーをもつ時代がやってきて1℃の気温上昇が起こったとしても、この熱バランスの影響だけならばクーラーの使用を中止してすぐに気温を元にもどす事ができる

と書きました。今回は

例えば世界の人口が100億人になって皆が一斉にクーラーを使ったとしてもまだ「五百分の1℃」です。

と、少し数字は小さくなります。でも、排出された CO2 は大気中に残り続けるのですから、地球温暖化の効果を1℃以下に抑えるには世界の人々はクーラー500台分のエネルギーしか使えないとも言えるのです。それも一生涯で、いえ、子々孫々に至るまで。そう考えるとどうでしょうか?この「クーラー500台分」という制限が意外と重たいものにみえてきませんか。

 今後の地球温暖化の効果を1℃とするのはかなり緩い目標ですから、本当は「クーラー500台分」も余裕はないのです。そしてCO2を排出しない再生可能エネルギーへの転換が完了するまで、私達がこの制限から解放されることはありません。

 

江頭 靖幸

 

« クーラーを使うと温暖化が進むのか?(江頭教授) | トップページ | 映画「妖星ゴラス」(江頭教授) »

解説」カテゴリの記事