温室効果ガスの単位として「二酸化炭素○○g」というのは適切か(江頭教授)
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今学期(2020年度一期)、授業のかなりの部分がオンラインとなっているのですが、オンライン授業では必ず質疑応答の場が必要、とのことで私が一部担当している「サステイナブル工学基礎」の授業でも質問コーナーを準備しました。いろいろな質問をしてくれる学生さんがいたのですが、その中の一つに
温室効果ガスの単位として「二酸化炭素○○g」は分かりやすいのでしょうか?
という趣旨の質問が。カーボンフットプリントの表示を見たことがあって、そこで「二酸化炭素○○g」という表示に違和感を感じた様です。
質問してくれた学生さんは応用化学科の所属の様で、確かに化学の人間からすると「二酸化炭素○○g」というのはあまり聞かない表現で、普通はモルで表現するのではないでしょうか。二酸化炭素は通常は気体ですから「二酸化炭素○○L(リットル)」というのもありでしょう。あるいは通常固体である炭素を基準にとって「炭素○○g」というのも据わりが良い感じがします。
でもこれは仕方がないのでは。なぜならカーボンフットプリントの「二酸化炭素○○g」は別に二酸化炭素そのものを示していないからです。
さて、カーボンフットプリントの「カーボン」は本当は温室効果ガスのことです。人間が排出する温室効果ガスのなかで「二酸化炭素(カーボンダイオキサイド)」が主要なものであることから温室効果ガスの代名詞のように「カーボン」という単語が用いられています。
同様に、温室効果ガスの量の単位として二酸化炭素のグラム(あるいはキログラムやトン)という質量の単位が用いられていますが、これも本当は「温暖化への寄与の大きさ」の一つの単位として「二酸化炭素1グラムの温暖化への寄与の大きさ」が使われているのです。二酸化炭素の分子のいろいろな性質のうちのごく一部に注目した用法であって、質量とモル数の関係(モル質量)、さらに体積との関係はその注目される部分からは外れているのですね。
実際、温暖化対策の議論が始まった当初は二酸化炭素ではなく、炭素のグラム表示が用いられるケースもありました。炭素基準か二酸化炭素基準か、いちいち確認する必要があって面倒だった記憶があります。現在は二酸化炭素のグラム表示に統一されているので、わかりやすいかどうかはともかく誤解はないようになりました。
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