安全なスプレー缶は作れるが(江頭教授)
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なんとなくラジオを聞いていると「自動車を運転していた人が冷却スプレーを使って、その後にタバコに火をつけようとした途端に爆発が起こった」という事故について解説していました。興味をもって検索すると下の様なニュースがすぐに見つかりました。爆発したのはトラックで信号待ちで停車していたときの出来事だとか。幸い、爆発した車を運転していた人は命に別状はかなったそうです。
さて、爆発の原因になったという冷却スプレーというのは体を冷やすためのものスプレーです。以前、スポーツ競技でけがの応急処置で使われているのを見たと思います。最近は、熱中症対策などで最近一般的にも使われる様で、この運転手の人も暑さ対策として利用していたのでしょう。
冷却スプレーにはLPガスやジメチルエーテルが加圧されて液体となった状態で入っています。常温では気体の成分を加圧して容器に入れることで液化している訳ですから、容器が解放されると逆に気化しながら放出されます。ノズルから噴出される際には蒸発してガスになって気化熱を奪うことで冷却にも寄与する。これらの成分はガスやミストを噴出させるための原動力であると同時に冷却剤としても働くわけですね。
そもそも、普通のスプレー缶にもLPガスやジメチルエーテルが「原動力」として利用されています。というか、スプレー缶が噴出されるときに冷えることが冷却スプレーの着想のもとなのではないでしょうか。
注意するべきなのは、LPガスやジメチルエーテルは可燃性である、という事です。
可燃性ガスを密閉した部屋に放出してライターで火をつける。件のドライバーがやったことは事実上、爆発の実験をしているようなものです。けがをされたことには同情しますが、残念ながらこれで爆発が起こるのは無理からぬ事だと言わざるを得ないでしょう。(いえ、私も人のことは言えません。ライターの燃料ガスをスプレーから放出させて遊んでいたという前科があるのです。まあ、私はタバコは吸わないのですが。)
とはいえ、一般の人はスプレー缶にこのような化学物質が入っていることは知らないのではないでしょうか。内容物を確認しても、そこまで気が回らない人も多いかと思います。たぶんスプレーには「火気厳禁」とか「風通しの良いところで云々」といった注意書きがあったと思います。でも、そんな事より本質的な解決策はLPガスやジメチルエーテルと同様に利用できる可燃性のないガスを合成し、安全なスプレー缶を作り出す事ではないでしょうか。
そう、たとえば炭化水素の水素をフッ素や塩素で置換した化合物はどうでしょうか...って、それフロンのことだよ。
実際、使用が規制される以前にはフロンを充填剤としたスプレー缶というものが利用されていました。スプレー缶がこんなに一般的に用いられているのに、使った際に火気にきをつけなくてはならない、という常識が確立されていないのはもしかしたらフロンを用いたスプレー缶があったことが原因なのかもしれませんね。
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