新型コロナ感染症対策 アルコールの濃度(片桐教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
新型コロナ対策で手指の消毒用のアルコールが教室や廊下やエレベータの前などに設置されています。今回はこのアルコールの濃度についてです。
学内で使用している手指消毒用のアルコールを5月に私の研究室で調整しました。高純度アルコール80%とグリセリン5%と極少量の塩化ベンザルコニウム0.05%に水を加えて調製しました。このレシピは大阪大学の安全の専門家のY教授に教えていただきました。
この成分のうち、グリセリンは肌への優しさのため、塩化ベンザルコニウムは主に殺菌のためであろうかと存じます。では、エタノールをおおよそ80%に薄めるのはなぜかという疑問を持ちましたので、調べてみました。
Covid-19、コロナウイルスの最外殻はエンベロープという脂質二重膜からできています。コロナウイルスの感染は、このエンベロープをヒト細胞と融合させることで起こります。だから、このエンベロープを破壊すれば、コロナウイルスは感染能力を失います。この脂質二重膜はヒト細胞由来です、そして、細菌の細胞膜とも共通です。だから、殺菌に使える濃度のエタノールが最適です。
最外殻をカプシドと呼ばれるタンパク質で覆われたウイルスの場合はそのカプシドタンパクを変成させるために、おおよそ100%エタノールが最適ですが、コロナウイルスの最適濃度は異なります。
ネットでいる色調べると「日本食品洗浄剤衛生協会」のWeb Pageにその最適濃度についての記載がありました。
< http://shokusen.jp/ethanol.html>より転載。
古い研究結果ですが、黄色ブドウ球菌を死滅させるために必要とする時間は、エタノールの濃度に大きく依存することを示しています。数値が小さい方が短時間で死滅することを示します。最適濃度はおおよそ60~80%であることがわかります。100%では細菌はなかなか死にません。
別のウエブページにも同様に100%よりも少し水で薄めたエタノールが殺菌に好適である旨が記載されています。
< https://www.kao.co.jp/pro/hospital/pdf/08/08_05.pdf>
さて、どうして少し水に薄めた方が良いのかについて、いろいろな説明があります。純粋なエタノールよりも水で極性が高められたアルコールの方が膜にしみ込み易いとか、表面の親水器への親和性が増す、とか、諸説あります。しかし、私にはまだ納得できていません。
消毒用アルコールひとつでも、まだ化学的には十分に解明されていないようです。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)