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それでもあなたは間違っているー物質収支のはなし(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 学生実験で「蒸留」の実験をしている、という話はずいぶん前のこちらの記事で紹介しています。実はその後の見直しで一時中断していたのですが、今年度から再開しています。

 さて、この実験ではエタノールと水を混ぜて図のような装置によって蒸留を行い、得られるエタノールの純度と回収率とを求めるという内容なのですが、同時に物質収支についても検討してもらう事にしています。

 「物質収支」という言葉を聞いたことがない人も多いかと思います。文字どおり「物質」の「収支」のことで、マテリアルバランスと言ったほうがピンとくるでしょうか。

 今回の実験では「三口フラスコに入れたエタノールと水の混合液」の量(質量です)が「蒸留された溶液」と「三口フラスコに残った溶液」の質量の和に等しいか、という確認。さらにエタノールのみに注目して「入れたエタノール」が「出てきたエタノール」と「残ったエタノール」の和になっているかも確認することになっています。

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 そんなの一致して当たり前でしょう。

いやいや、それがなかなか一致しないのです。もちろん、小数点以下何桁も一致、というはなしは精度的にあり得ません。エタノールについての物質収支では濃度測定の精度の問題もあります。でも、全体の質量についての物質収支はただ電子天秤で測るデータだけの計算です。これが平気で数パーセント、数g の差がでる。そこで学生さんに

 どうしてこんなに差が出るの?ちゃんと測れてないのでは?

そう問いかけると

そんなことありません。きちんと測っています。

と答える人が多い。でも物質収支が合わないとなると、どこかに必ずなにかの間違いがあるはず。それでもあなたは間違っているのです。

 さて、このお話から「実験操作は意外と難しくて、質量測定のような簡単な作業でもミスをするものだ」という教訓が一つ。でももっと重要だと私が思うのは「間違いは自分では気が付けない」ということです。この蒸留の実験では物質収支の検証によって間違えれば必ず見つかるようになっています。でも他の実験はどうなのでしょうか?

 いえ、もっと深刻なのは実社会にでたあと、責任をまかされた仕事でも「間違いは自分では気が付けない」ことに変わりはないことなのです。

江頭 靖幸

 

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