樹液流センサーのこと(江頭教授)
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私は乾燥地植林に関する研究を行っていますが、その時いつも問題になるのがどこから水を調達するのか、調達された水はどの程度有効に使われるのか、といった水に関する情報です。特に樹木がどれだけの水を利用するのか、は重要な情報なのですがこれはそう簡単に知ることができません。
さて、この樹木が利用する水についての情報を与えてくれる「樹液流センサー」、つまり樹液の流れを計るためのセンサーはいろいろな種類があります。そのどれもが水の流れと伝熱との相互作用を利用していますが、もっともシンプルなのが発熱するヒーターを樹木の中に埋め込んでその温度を測定するタイプ。ヒーターの温度は流れた止まっているとき最も高くなるのですが、樹液が流れると、そしてその流れが早いほどヒーターは冷却されて温度が下がる。その下がり方を測定することで樹液流を測定するのです。
実際のセンサーはヒーターだけでなく、基準となる周辺の温度を測定するためのプローブが必要で、樹木に2本の針状のプローブを埋め込んだ形となります。このタイプのセンサーは開発者の名前をとってグラニエセンサーと呼ばれています。シンプルでありながら信頼性が高いことがメリットです。
上の写真は実際にこのタイプのセンサーを取り付けたところ。3組のセンサーを取り付けたので合計6本のプローブが樹木に埋め込まれています。
さて、このグラニエセンサーは比較的簡単に手作りができるので、私も大いに利用したいところです。でも実は利用に際して大きな制約があるのです。
ヒーターの温度を測定する、と書きましたがこのヒーターは常に発熱させ続けねばなりません。ヒーター一個あたり0.2Wですがこれは結構なエネルギーです。たとえば大容量モデルのエネループ、単三形で供給できる電気量が 2,500 mAh だと言います。起電力が1.5Vだとしてエネルギーとしては 3.75 Wh です。これだと100%の効率でヒーターを加熱できたとしても 18.75時間で、1日も持たないのです。消費電力が大きくて連続的な測定のためにはそれなりのエネルギー源が必要となります。
今のところ、太陽電池を使ってこのセンサーを動かしています。昔と比べて太陽電池が身近に、そして安価になったのでは事実なのですが、それでも結構な手間。グラニエセンサーの利用の際には、やはりエネルギー供給がネックなのです。
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