樹液流センサーの未来(江頭教授)
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前回の記事では樹液流センサー、つまり伝熱現象を利用して樹木の中を流れる水の速さを測定するセンサーの、とくにグラニエセンサーについて紹介しました。今回は想像の羽を広げてこの樹液流センサーが今後、どのように使われてゆくかを思い描いてみましょう。
現在、樹液流センサーの利用目的としては一部農業分野での利用(灌漑の計画など)も挙げられていますが、それ以外は研究目的での利用が想定されています。とはいえ、将来的、それもごく近い将来にIoT(Interenet of Things)のネットワークが構築されたとき、その中に樹木も含まれているべきでしょう。これもまたもう一つの IoT 、Interenet of Trees ですね。
日本の国土の3分の2を占める森林が IoT から外れていて良いわけはありません。日本の森林がどのような状態なのか。例えば今現在どのぐらいの二酸化炭素が固定されているのか。今日は固定が進んでいるのか、放出が優勢なのか。去年からどのくらい増えて、来年はどのくらい増えそうなのか。などなど、日本全国津々浦々の木々にたくさんのセンサーが取り付けられて日本の森林の健康状態がリアルタイムで把握できるような世界、それが Interenet of Trees の世界です。どこかの森林の成長が悪い。だとしたらそれはその森だけの話なのか、近隣の状態はどうなっているのか。限られた人手で森林を管理し続けるには必要な投資でしょう。
さて、こう考えたとき森林に配置すべき IoT の目、主要なセンサーはどんなものでしょうか。その第一候補は残念ながら樹液流センサーではなく、デンドロメーター(樹木の幹の周知長を測定する装置)だろうと私は思います。木の大きさの代表的な指標はやはり幹の周囲長ですからね。第二の候補は気温や湿度などの気象(樹木の近傍の微気象)、そして日照のデータも同率二位でしょう。
では樹液流センサーは第三位でしょうか。それも難しいでしょう。なぜなら前回紹介したように樹液流センサーは非常に電力を喰うデバイスなのです。森林での水の流れがどのようになっているのか、これは貴重な情報なのですから樹液流センサーに対するニーズはあると思います。でもそれを知ることができる様になるためには樹液流センサーのエネルギー消費の問題をどうにかする必要がある、ということですね。
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