大気中のフロンの濃度はどれくらい?(江頭教授)
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「オゾン層の破壊」という地球環境問題の原因がフロンである、というお話しはほとんどの人が知っているのではないでしょうか。では、そのフロンは一体どのくらい大気の中にあるのでしょう?今回は環境省の「オゾン層等の監視結果に関する年次報告書」に乗っているデータにもとづいて、その現状を確認したいと思います。
以下の図は件の「オゾン層等の監視結果に関する年次報告書」に示された資料の一つ。そのものズバリ、CFC-11、CFC-12などのフロンの濃度の経年変化が示されています。
まず注目するべきは、縦軸ですね。数値は最大600でCO2濃度のグラフとあまり変わりませんが単位が違います。CO2ならppmですがこちらはppt。6桁、100万倍の違いですから、まさに桁違いに少ないのですね。(まあ、当然ですが。)
次に(N)、(S)という二つのグラフが並べて書かれている点にも注目しましょう。(N)は北海道で測定された値。(S)は南極での値で、地球の両端(ぐらい)のところで測定された二つの測定がほとんど同じ値を示す、ということが分かります。
これにはフロンという物質のきわめて安定、という特性が反映しています。一度大気に放出されたフロンは大気中で分解しません。長い時間大気中に留まるのでどんな場所にでも拡散してゆく充分な時間があるのです。
こういう言い方もあるでしょう。大気中の物質は発生源の近くで濃度が高く、吸収源の近くでは濃度が低くなるものです。発生もしなければ吸収もされないものなら濃度に分布がつかない。フロンの濃度は地球全体で一定になっているのです。
地球全体で一つの濃度。これは地球環境問題の本質的な特徴の一つだと言えるでしょう。各国、いえ各個人が自分の好きな「フロンの濃度」を持てるなら高いフロン濃度も個人の自由です。「オゾン層より安価なスプレー缶でしょ」という人がいても良いのです。ですが地球全体で一つの「フロン濃度」しか持てないというなら、何とかして意見を統一しないと。
さて、この図の三番目のポイント。それは90年代に増加が止まっていること。減少に転じているものもあります。これはもちろん、フロン濃度を下げるべき、という統一された意見である「ウイーン条約」が「モントリオール議定書」を通じて実現された結果なのですね。
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