揚水発電の存在感(江頭教授)
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前回は揚水発電の原理について、前々回は「水主火従」という四文字熟語に絡めてベースロード電源とピークロード電源の話を紹介しました。
今回のお題は実際に揚水発電がどの程度用いられているのか、です。前々回、1960年代以前の日本の電力が「水主火従」だったことを
水力発電でベースロード電源を賄い、火力発電でピークロード電源を補う
という電源構成だと解釈するという前提で、その後の電源構成は「火主水従」というよりは、どちらかというと「火主火従」、つまり
ベースロード電源もピークロード電源も火力発電で賄う
というものだと指摘しました。では、(下の写真のような)揚水発電所が建設された現在は本当の意味で「火主水従」となっているのでしょうか?
さっそく2018年の総合エネルギー統計を調べてみましょう。揚水発電は「事業用発電(揚水発電を除く)」とだけやり取りをしています。要するに電力会社が発電した電気を受け入れているわけで、供給側には当然(揚水発電を除く)という注意書きがはいります。そのエネルギー量は年間
62868 TJ
だとか。T(テラ)ジュールなのでものすごく大きそう。でもどのくらい大きいのかわからないですね。ということで電力全体と比べてみましょう。こちらは
3225499 TJ
なので揚水発電に回されている電力は約2%にすぎません。「火主水従」という意味では「水」が「主」でないことは確かにその通りなのですが、わざわざ「水従」とまで言うほどの存在感があるのかどうか。やはり今でも「火主火従」というべきでしょう。
なお、総合エネルギー統計によれば揚水発電が系統電力に返している電力は
37950 TJ
だとか。受け取った電力よりもかなり小さく、60%程度にすぎません。これは揚水発電を蓄電池(物理)とみなした時の効率に相当しますから、当然100%にはなり得ないのですね。
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