揚水発電について(江頭教授)
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今回は昨日の記事の末尾で触れた「揚水発電」について少し説明しておきましょう。
揚水発電は、はて水力発電とよんで良いのでしょうか。とはいえ、その設備は水力発電所そのものです。ただ、普通の発電所は上にダム、下に川があって、ダムの水が川に流れ落ちる際に位置エネルギーを電気エネルギーに変換します。ところが、揚水発電所では発電所の上にも下にもダムがあるのです。
上のダム(上部ダム、上池などと呼ばれます)の水を下のダム(下部ダム、下池)に流して位置エネルギーを電気エネルギーに変換するところも同じです。でも、普通に考えると上部ダムの水がなくなったら発電はおしまい。また次の雨を待つのでしょうか。
そこが揚水発電の違うところ。揚水発電所には下池の水をくみ上げて上池に戻すという機能があるのです。しかもその原動力は電気。要するに発電機を逆回転させて水に位置エネルギーを与えるのです。
一体何の意味が…。水をくみ上げては落とすという無限の苦役、これは現代文明に対する神の懲罰をギリシャ神話を模して表現した現代アートなのでしょうか。
もちろん、そんなことはありません。ポイントは発電は昼に、水のくみ上げは夜に行われるという点です。昼間にくらべて夜、特に深夜は電力消費が少なくなるのはよく知られたことです。一定の電力を作り続ける発電所、いわゆるベースロード電源を中心とした発電では昼の供給に合わせて発電すると夜の電力が余ってしまいます。この余剰の電力を使って揚水を行い、昼になって電力への需要が増えれば発電を行う。これが揚水発電の目的です。
揚水に必要な電力と発電される電力をくらべると必ず揚水の電力の方が大きい。したがって「揚水発電所」はトータルでみれば実は発電していません。これはエネルギーをため込んで放出する装置であって、「蓄電池(物理)」と呼ぶべきものなのです。こんなに巨大な「蓄電池(物理)」は持ち運びはできませんが、でも時間を超えて夜から昼に電気を運ぶことができる。ベースロード電源を電力の需要に合わせて運転を調節するより、この「蓄電池(物理)」の方が効率が良い、というケースがそれなりにあるからこそ揚水発電は実用化されているのですね。
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