拡散方程式の解(江頭教授)
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以前の記事で「拡散方程式」について紹介しました。その最後に拡散方程式の形が「拡散現象では時間がたつにつれて濃度分布は消えてゆき、最後は均一に」なる、という現象に対応していると述べたのですが、今回はその点について説明をしましょう。
まず、拡散方程式の解を求めてみましょう。境界条件や初期条件は不問として、とりあえず一つでいいので(常に定数、以外の)解を求めることを目標とします。この場合用いられるのは変数分離法と呼ばれるテクニック。拡散方程式の解が時間だけの関数(T)と位置だけの関数(X)の積であらわされると「仮定」するのです。「どうしてそんなことがわかるのか」という疑問はさておいて、まずはその仮定のもとで議論を進めてみましょう。
はい、上の囲みのような式変形ができました。この式をみると左辺は時間の関数、というか時間のみの関数。右辺は位置 x のみの関数で、両者が等号で結ばれています。時間のみの関数であり同時に位置のみの関数である、となればその条件を満たすのは定数しかありません。
定数をαとすれば左辺、右辺からそれぞれ時間と位置に関する微分方程式(偏微分方程式ではない)が出来上がり、これを解くことが可能になります。
さて、時間の関数を見てみると e を底とする指数関数になっていることがわかります。上の囲みでαが正の場合は拡散方程式の解 C(t,x) はいつかは無限大に発散することになる現実的ではない解です。現実的なのはαが負の場合。このとき t が無限に大きくなると C(t,x) は 0 になってしまいます。これが「拡散現象では時間がたつにつれて濃度分布は消えてゆき、最後は均一に」 なる、ということに対応しているのです。
ここで扱った拡散方程式はFickの法則の第2形式と呼ばれるもので、Fickの法則の第1形式から導かれるものです。「拡散による物質移動は濃度勾配の逆方向にながれ、その大きさは勾配に比例する」というFickの法則から拡散方程式が導かれ、それが「拡散現象では時間がたつにつれて濃度分布は消えてゆき、最後は均一に」 なるという結論に至る、というのは何か不思議な気がしますね。
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