ゲイ=リュサックとステアリン酸(江頭教授)
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ゲイ=リュサックの名前は皆さん化学の授業で聞いたことがあるのでは。私は「姓はリュサック、名はゲイ」なのかと思っていたのですがゲイ=リュサックで姓なんですね。名はジョセフ、ミドルネームがルイでジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサックがフルネームだそうです。
さて、このゲイ=リュサックの名前が有名なのは「ゲイ=リュサックの法則」があるから。気体同士が反応して別の気体ができるとき、それぞれの気体の体積(同じ温度と圧力で測定します)が簡単な整数比になる、という法則です。「簡単な整数比って何だよ」と思いますが、それが何なのか、の探求が分子という概念の誕生のきっかけなのですね。
なんでいきなりゲイ=リュサックの話を始めたか、ですが、実は前々回から紹介している「ロウソクの科学」に彼の名前がでているのです。ただしゲイ=リュサックの法則とはあまり関係のないステアリン酸の発見者として触れられています。
ステアリン酸はカルボン酸の一種で炭素数が18、本来ならオクタデカン酸と呼ぶべき物質です。常温では固体。比較的低い温度で溶け(融点 69.9℃)て可燃性なのでロウソクの原料として用いられる。それで「ロウソクの科学」に出てくるわけです。
ロウソクの科学ではいろいろな種類のロウソクを紹介し、牛脂で作られたロウソクが現在(1861年の現在)では「牛脂ロウソクのような油でべたつくものではなく、さらっとしたもの(角川文庫版 「ロウソクの科学」三石巌訳 14ページ)」になった、その理由としてゲイ=リュサックによるステアリン酸の発明を紹介しているのです。
ゲイ=リュサックによるステアリン酸の製法では牛脂を生石灰と一緒に沸騰させて加水分解し、ステアリン酸のカルシウム塩を造ります(ファラデーはこれを「一種のセッケン」と表現しています)。これを硫酸で処理してステアリン酸を得るのですが、グリセリン、硫酸カルシウムと未反応の牛脂からステアリン酸を分離する方法については「圧力をかけて油をしぼって」と表現しているので、おそらくステアリン酸が固体として析出するのでしょう。
ゲイ=リュサックの時代には分子の概念がなかった(そりゃそうだ)はずです。それでもこのような反応を手探りの実験で見つけ出し、さらに工業化まで進めていた、と考えると人間の「化学」的なものとのかかわりは化学の理論が確立される前から連綿と続いていたことが分かります。
さて、このジョセフ・ルイ・ゲイ=リュサック氏、化学的な興味だけでステアリン酸をつくったのではないでしょう。ロウソクに実用化されていたという記述から実業の面でも活躍した人物であることが伺えます。後にはフランスの上院議員をつとめ、パリには彼の名が付いた通りがある、というのですから学術でも実業でも充実した人生を送ったのでしょうね。
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