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大気中の炭素の質量はどれくらいか(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 大気中の二酸化炭素濃度が 400 ppm を超えたというニュースを聞いたのは、はていつ頃のことだったろうか。そう思って調べてみるともう5年以上も前なんですね。月日の経つのの何と早いことかと思います。それはさておき、このデータを使うと大気中の炭素の量が計算できるな、と思いつきました。今回はその計算をやってみましょう。

 さて、先日「大気の量はどのくらい?」という記事で大気圧と重力加速度、それに地球の表面積から大気の質量を 5.27×1018 kg と見積もりました。大気の全量がわかったので400ppmという数字を使って二酸化炭素の量を出せばよい。ppmは「100万分の1」ですから…ちょっとまって、ppmは体積分率で重量分率ではないですよね。

 体積比ですから要するにモル比で計算すれば良いわけです。空気の平均分子量を29として、炭素の原子量は12ですから、29で割って、100万分の400倍にして、さらに12をかければ良いでしょう。

 結果は 8.67×1015 kg ( = 866 Pg ) となりました。

 さて、IPCCの第5次報告書にある炭素循環の表と比べてみましょう。 大気中の炭素の質量は産業革命前は 589 Pg とされていて、これが人間の活動によって240 Pg ほど増加したとされています。 589+240で 829 Pg。あれ、計算の結果より結構小さいのですが…。

 

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 実はIPCCのデータは2000年から2009年までの10年間の平均値を示したものです。当時(10年前)には大気中の二酸化炭素濃度は 400 ppm には到達していなかった。その差がこの計算結果の違いに表れていると考えられます。866 Pg と 829 Pg、その差は37Pg、370億トンで炭素ではなく二酸化炭素に換算すれば約1360億トンとなります。2017年の世界の二酸化炭素排出量は328億トンですから、それでも排出したすべての二酸化炭素が大気に蓄積しているわけではないことがわかります。

 たった10年ほど、地球の歴史から見れば一瞬で、大気中の炭素の量がこんなにも変化する、というのは考えてみれば空恐ろしい話ですよね。

江頭 靖幸

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