飢餓の撲滅と技術の役割 (江頭教授)
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前回はWFPの「The State of Food Security and Nutrition in the World (SOFI) Report 2020(世界の食料安全保障と栄養の現状)」(こちらからダウンロードが可能です) というレポートに基づいて世界の食料事情について説明しました。2000年代に入って改善を続けていた飢餓の撲滅ですが、残念ながら2010年代に入って足踏み状態にあります。このままでは増加に転ずるという予測すらある、という状況を紹介しました。そして、これは単に技術の問題ではないという私見を述べさせてもらいました。その証拠に世界には飢えている国と飢えていない国がある(下図に示したWFP作成の世界ハンガーマップにはまさに飢えている国と飢えていない国が明示されています)のです。食料生産に関する技術は基本的にはオープンになっているにもかかわらず、それでも飢餓の存在する国がある。これはその国には技術以外の問題が存在すると考えるべきです。
ここで仮に、世界の人々が何が何でも飢餓を無くそう、と決意したと考えてみましょう。その場合、人々は何をするのでしょうか?まずは現在耕作可能な土地をどんどん農地に変えて農作物の増産に精を出すでしょう。先進国では農産物増産に必要な耕作機械や肥料、農薬などの製法や利用のノウハウはすでに確立しています。あっという間に世界の人々を飢えから救うのに充分な食料が作られるでしょう。その意味で工学や農学など自然科学を応用した技術は飢餓の撲滅を可能にする能力を持っていると私は考えます。
でも、これだけでは世界の飢餓を無くすことはできない。本当に飢餓を無くすためには先進国で生産された食料を実際に食料が不足して飢餓に苦しんでいる人たちに配分する必要があるのです。