デマを拡散しないように- 22 片桐の勝手な推測と憶測 (片桐教授)
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(以下の記事はこちらの記事からの続きです。)
さて、湿度や日照時間の影響を受ける「まだ未解明のインフルエンザとは異なる感染経路」はいったいどのようなものでしょうか?。わたしは、これは「接触・経皮感染」だと思います。
今のインフルエンザの感染予防の概念で言えば、接触感染は,ウイルスで汚染された手指で目や口や鼻の粘膜を触ることにより起こります。あえて言えば「粘膜感染」です。インフルエンザウイルスは,喉や鼻の細胞に存在する「細胞接着因子」としか結合できないので、少なくとも最初の感染は喉になります。しかし、新型コロナウイルスの細胞接着因子はACE2というアンジオテンシン合成酵素だと言われています。これは,喉や肺だけではなく、全身の血管の内皮細胞に存在します。つまり、新型コロナウイルスは、チャンスがあれば全身のどこへでも感染できる可能性があるということです。
例えば、手指の傷は粘膜と同じでウイルスがそこに入れば毛細血管へアクセスできます。さらに、新型コロナウイルスは腎臓にも感染するそうです。皮膚の汗腺は腎臓と同じ機能を持ちます。だから、皮膚の汗腺からの感染の可能性も否めません。
ウイルスを含む飛沫が机などに付着し、その付着飛沫に手指などの皮膚が触れることによる接触経皮感染は防ぎにくいものです。おそろしいものです。
今回の「短い日照時間,または高い湿度は新型コロナ感染を招くかもしれない」という結果は, これまでの冬場の風邪の感染予防の常識にいささか反します。これまでは風邪を予防するために,部屋の加湿を推奨してきました。確かに加湿すれば, 空中の飛沫は水分を得て重くなり遠くまで飛散しにくくなります。また, ヒトの気道の細胞は乾燥によるダメージを受けにくくなり, ウイルスを排除する気道表面細胞の活動も活発になります。しかしその一方で, 加湿は空気中に飛散したアエロゾルや飛沫の乾燥を防ぎ, ウイルスの感染活性を持続させます。また, 加湿により重くなったウイルスを含む飛沫は落ちて比較的低温の机上や什器に付着してしまいます。さらに,加湿はその付着したウイルス飛沫の乾燥を防ぐため, ウイルスの長期生存を許容し,付着飛沫による接触感染の可能性を高めるおそれがあります。加湿は人に優しく、ウイルスにも優しいということですね。
インフルエンザの予防との類似性から,新型コロナ感染拡大防止対策については, 飛沫感染やアエロゾル感染などの空中感染の危険の議論が先行し, 主に飛沫感染対策ばかりが提案されています。しかし、新型コロナ感染症はインフルエンザとは異なる感染症です。机などの表面に付着した落下飛沫内のウイルスの感染活性は,乾燥しにくいために浮遊飛沫よりも長く保たれます。その付着飛沫を触りその手指で目や鼻や口を触ることによる接触感染経路は「感染経路不明」の事例になりえます。感染経路不明の新規感染者が6割を越える現状[15]では, 接触感染対策を積極的に考慮すべきです。
多人数の集まる職場環境や不特定多数の訪問を受ける環境では,屋内の加湿よりも,頻繁な換気による浮遊飛沫や付着飛沫の乾燥と,こまめな机面や什器等の消毒を行なうべきです。飛沫の乾燥へは相対湿度や温度だけでなく,気流速度(風速)も影響します[16]。洗濯物を乾かすためには扇風機で風を当てることが有効です。
そして、換気をしましょう。特に洗濯物の乾きにくい冬場は,浮遊飛沫や付着飛沫の乾燥のため,積極的に換気するべきです。同時にマスクにより個人の口腔鼻腔内の湿度保持による気道の保護をしましょう。
参考文献
[15] 日本経済新聞2020.8.2 記事 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO62206530S0A800C2NN1000
[16] 桐栄良三,化学工学,1961, 15, 690.
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