地産地消VSグローバリズム ― 食料 ― (江頭教授)
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前回の記事では「地産地消VSグローバリズム」としてエネルギーについて考えてみました。今回は食料について。エネルギーの地産地消というのはしっくりこない言い回しかも知れません。でも食料についてなら地産地消という表現は実にぴったりきますね。
さて、日本は食料自給率が低い国であると言われています。農林水産省の「食糧自給率とは」というページでは「カロリーベース総合食料自給率」として 38% 「生産額ベース総合食料自給率」66% そして「食料国産率」としてカロリーベース 47%、生産額ベース 69% という数値が掲載されています。それぞれの数値の定義は引用元を参照していただくとして、大雑把に日本は3分の1から2の食料を海外に依存してる状態であることが分かります。
やはり日本は食料についても地産地消の難しい国だ、といえるでしょうか。とはいえエネルギーの場合と比較すると遙かにましな状況だという見方もできます。何しろエネルギーの自給率は全体の10分の1程度なのですからね。
前回、地産地消かグローバリズムか、の選択は安全性と効率性の兼ね合いだ、という言い方をしました。その流れでなら日本は食料についても効率重視の国だが、それでもエネルギーほどではない、といったところでしょうか。
とはいえ、やはり食料については安全重視なんだ、というのは少し早とちりでしょう。化石エネルギーを中心とした今のエネルギー技術を前提に考えると日本にはめぼしいエネルギー資源がありません。その一方で食料生産についてなら日本もそれほど悪くない、というか気象条件についてならかなり恵まれていると言っても良いでしょう。人口密度が高く大規模農業を行うのに相応しい平坦で広大な土地が乏しい、という点で世界全体でみるとやや見劣りするのでグローバルに打って出るには一工夫も二工夫も必要ですが、国内市場を相手にした農業にはそれなりの足場が確保できるわけですね。
もっと言うと一部の国に偏っているエネルギー資源とは異なって、農業生産に適した国はそれこそ世界中にあると言っても良いのです。どこかの国、あるいは一部の国のグループによって国際市場がコントロールされる、というグローバル市場のリスクが、こと食料についてはかなり低い。なぜならどこかの国が市場価格をつり上げようとすれば、その価格に刺激されて食料の輸出を増やそうとする国が世界のどこにでもいる、という状況が容易に想像できるのですから。
日本の食料がエネルギーに比べて自給自足の割合が高い、というのはエネルギー産業に比べて食料生産(というか農業)ではグローバル化のメリットが限られているからだ、という方が私にはしっくりくるのですが、皆さんいかがでしょうか。
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