地産地消VSグローバリズム ― エネルギー ― (江頭教授)
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まず一点確認しておきましょう。現在日本で生活している以上、すべてを地産地消で、というのは夢のまた夢。私たちの生活の基礎は完全にグローバリズムの恩恵の上に築かれているといって良いでしょう。何しろ日本はエネルギー自給率が極めて低い国。最新のエネルギー白書(2020年度版版)に示された2018年のエネルギー自給率は11.8%にすぎません。エネルギーはすべての活動の基礎になるものですから、私たちの現在の生活は地産地消では成り立ちません。
と、いうわけでここでは遠い未来、あるいは近い将来においてエネルギーの地産地消(あるいは自給自足)を達成できるのか、そして自給自足を達成するべきなのか、を考えてみたいと思います。
まず、日本は石油や天然ガスの資源の乏しい国です。石炭は採れますがそれだけで充分なエネルギー供給量を確保するのは難しい。ということで、再生可能エネルギーに期待したいところですが、再生可能エネルギーという観点でも日本の国はそんなに恵まれているとは言えません。日照はそれほど強くなく、複雑な地形は風力発電にも向いていない。それでも広い領海を有効に利用すれば洋上風力発電によってエネルギーを賄うことは可能だと考えれらえています。こちらの記事では
洋上風力発電の未来は「確定した未来」ではありませんが「約束された未来」ではある
と書きましたが適切な技術開発と投資が行われれば、それでも日本というレベルでのエネルギーの自給自足、地産地消は可能なのだ、と考えられています。
では次の課題。日本は、というか世界各国でも良いのですが、そもそもエネルギーの地産地消を目指すべきなのでしょうか?
エネルギーに限らず地産地消のメリットは住民の自主的な決定が可能である、というやや抽象的な論点のほかに、セキュリティ、あるいは安全保障という論点があるでしょう。エネルギーという必要不可欠な資源を海外に依存していてよいのか。どこかの国の判断でエネルギー不足に陥ってしまうリスクをどう考えるのか。1970年代の石油ショックは、これが単なる可能性の議論では済まされないことを強く印象付ける出来事でした。
次にグローバリズムのメリットはどうでしょうか。これは効率が良いということに尽きると思います。地球全体でもっとも効率的に実施できるところでエネルギーを得る。その方が効率的なのは当たり前であって、これは化石燃料でも再生可能エネルギーでも同じ話です。
地産地消とグローバリズムの問題は、結局は安全性と効率性のどちらが重要なのかという話に帰着するとしましょう。この二つの異なる価値のどちらを優先するか、という議論には客観的な答えは望めそうもありません。多くの人が受け入れやすい答えとしては「平時にはグローバリズムのメリットを享受しつつ、危機に際しては地産地消で最小限の生活を守る体制を用意しておく」というところでしょうか。とはいえ、「用意」のための費用をだれが負担するのか、また「最小限の生活」とはどのようなものかについては議論百出となりそうですね。
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