地産地消VSグローバリズム ― 工業製品 ― (江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
地産地消とグローバリズムの比較、前々回はエネルギー、前回は食料ときて今回は工業製品について考えて見たいと思います。工業製品と言ってもいろいろあるのですが...。まあ、それはそれとして、まずは一般論から始めましょう。
工学の究極的な目的は工業製品の製造プロセスを再現可能にすること、という言い方もできると思います。勘や経験、理由不明の伝統に縛られずに再現可能な科学的なやりかたで工業製品を製造することができること。科学的な製造業という考えは今でこそ当たり前に思われていますが、工業の成立時から自明であったわけではないでしょう。実際の所「最新の工場はアメリカでは成り立たない」とイギリス人は言ったでしょうし、「最新の工場は日本ではなりたたない」とアメリカ人は言い、そして「最新の工場は中国では成り立たない」と日本人も言ってきたのです。でも現実は皆さんご存じの通り。先達からの適切な指導と自身の意欲があれば工業生産の製造プロセスを国をまたいで移植することが可能であることは現在では明らかになっています。
と、言うことで日本も「日本で必要な製品は日本で造るんだ」という立場をとる。世界の国々も同じように決意して工業製品が地産地消に限られる世界も実現できそうなものですが、そうはなっていないようです。
分野によりますが、最先端の製品を作れる国はやはり限られているという事例は多くあると思います。例えば半導体や自動車産業などがその例です。いや、これらのケースでは国というより企業と言った方が良いでしょうか。世界規模の大企業は効率重視でグローバリズムに適合しているのでそれぞれの国の希望に応じて、地産地消で、などと言ってくれそうにありません。いわゆる最先端の製品では常にイノベーションが起こっていて製品の入れ替わりが激しい。そのため企業としては製造プロセスを国境を越えて移動させる、などと悠長なことは言っていられないのがホンネでは内でしょうか。政治的な理由で企業の判断に介入するぐらい強権的な政府がある国は別ですが先端の工業製品の地産地消は普通の国には難しそうです。
その一方で、先端とは言えない工業製品なら「日本で必要な製品は日本で造るんだ」は可能でしょう。とは言え、一般的な工業製品についてはグローバル市場のリスク、どこかの国あるいは一部の国のグループによって国際市場がコントロールされる、という危険性がそれほど深刻だとは思えません。その点は農業と同じで地産地消にこだわる必要もなさそうです。
「解説」カテゴリの記事
- 災害発生時の通信手段について(片桐教授)(2019.03.15)
- 湿度3%の世界(江頭教授)(2019.03.08)
- 歯ブラシ以前の歯磨き(江頭教授)(2019.03.01)
- 環境科学の憂鬱(江頭教授)(2019.02.26)
- 購買力平価のはなし(江頭教授)(2019.02.19)