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デマを拡散しないように- 19 新型コロナウイルスの構造からの推察(片桐教授)

| 投稿者: tut_staff

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(以下の記事はこちらの記事からの続きです。)

 疫学的にはウイルスの感染拡大は冬場の低温低湿で起こるとされる一方で, 化学的な視点ではウイルスは低湿条件での乾燥に弱いと予想されます。つまり、化学的に見れば、これまでの「風邪の予防のためには、加湿して部屋の湿度を挙げることが大事である」という考えが必ずしも正しくないということです。

 コロナウイルスやインフルエンザウイルスは「エンベロープ・ウイルス」と呼ばれています。これらのウイルスは遺伝情報のRNAがカプシドというタンパク質のカプセルに包まれ, さらにその外側がエンベロープと呼ばれる親水性基を表面に配した脂質二重膜で覆われています[10]。

 2002~2003年に流行したSARSコロナウイルスの感染はスパイク蛋白=細胞接着因子がヒト細胞表面のACE2酵素と結びつくことにより開始すると考えられています[11]。 続いて, ヒト細胞のプロテアーゼの働きにより、ウイルスはエンベロープをヒト細胞膜と融合させて, 細胞内にRNAを送り込み, 感染を完了するとされています[10]。したがって, ウイルスのエンベロープを破壊すればそのウイルスは感染性を失います。アルコールやセッケンによる消毒はこのエンベロープを破壊すると理解されています。.
 新型コロナウイルスのエンベロープの化学的な構造[12] は、ウイルスは飛沫などの水中では安定であることを示します。一方で乾燥すると,このベシクル構造は内部エネルギー的に不利になり不安定化し, エンベロープは破壊されます。したがって, 新型コロナウイルスを含む飛沫の乾燥により, 内包するウイルスはその感染能力を失います。そのため新型コロナウイルスは, 飛沫核感染=空気感染は起こさないと考えられています。
 以上のように, 新型コロナウイルスはヒト気道表面の細胞と同様の理由で乾燥に弱いと考えられます。冬場の乾燥はウイルスにも厳しいのですが、人間の呼吸器気道の細胞にも厳しく、そちらもダメージを受けるので、加湿が重要とこれまでは考えられています。
 しかし、実際には、乾燥した環境はウイルスも喉も痛めつけるということです。

 

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参考文献

[10] 水谷哲也, 新型コロナウイルス 脅威を制する正しい知識, 東京化学同人, 2020.
[11] 松 山 州 徳,ウイルス 2011, 61 109-116.
[12] 日本化学会編, コロイド科学I, III, IV, 東京化学同人, 1996.

 

江頭 靖幸

 

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