本学の応用化学科では、そろそろ卒業論文の発表会が開催されます。初めて自分だけで行った研究である卒業研究、その発表会ともなれば学生諸君の緊張如何ばかりか。特に今年度は卒業論文の中間発表会が新型コロナウイルス感染症の関係で中止されました。多くの学生さんにとってはこれが初めての個別発表の舞台となるのです。
そんなわけで本学に限らず、発表を予定している学生さんたちに少しアドバイスを、と思ったのが今回のタイトル。「スライドの前に下書きを作りましょう」です。
最近の発表はノートPCをプロジェクターに接続して発表を行うのが一般的になっています。その際のノートPCでは多くの学生さんがMicorsoft社のPowerPointなどのプレゼンテーション用のソフトを利用すると思います。最近のプレゼンテーション用のソフトは簡単にテキストやイラスト、図などを配置したきれいなスライドを作ることができます。ただ、この「簡単に」というのがくせ者。この「簡単に」はおそらくレタリングセットや製図机を使って物理的にスライド原稿を作ることに比べたら「簡単」ということに過ぎないと思います。
プレゼンテーションは複数のスライドを使って一つのお話し、ストーリーを聞き手に説明するためのものです。ですから発表の最初の作業は発表の内容、つまりストーリーを決めることです。次の作業はストーリーを説明しやすい様にスライドの並びを決めること。続いてスライドの細かいルックをきめて、さあ、やっとスライドの作成です。
プレゼンテーション用のソフトといわれるものが簡単にしてくれるのはこの最後の段階、スライドの作成だけなのではないでしょうか。発表の初心者にとって難しいのは実は「ストーリーを説明しやすい様にスライドの並びを決めること」の方で、これにはプレゼンテーション用のソフトはあまり役立たないと思います。
「いや、プレゼンテーション内でのスライドの順番を簡単に変更できるのだから...」という声が聞こえてきそうですが、果たしてそうでしょうか。全てのスライドが完成しているならその通り。研究歴がそれなりにある人は作り貯めたスライドの順番を組み替えて発表することも多いので、そんな用途にはぴったりでしょう。でも、卒業研究の発表では作り貯めたスライドなどありません。ほとんど全てのスライドを自分で作るとなるとそれなりの時間がかかってしまいます。
「ストーリーを説明しやすい様にスライドの並びを決めること」は、具体的にはどんな作業なのでしょうか。まずは、いくつかのスライドを作って並べ替えながら話してみる(本当に声に出す必要はありませんが)。これをくり返しながら話しやすい並び順を見つける。話しにくい部分があればスライド作り替える、あるいは作り足すなど。そんな作業だと思います。この作業をするとき、プレゼンテーション用のソフトで作るような立派なスライドは必要ありません。なんなら手書きのラフスケッチ、ポンチ絵で良いのです。
そう、下図のような感じで充分です。