「誰一人取り残さない」温暖化対策(江頭教授)
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国連の掲げるSDGsの理念として語られる「誰一人取り残さない」については前回の記事でも触れました。今回は温暖化に対する対策を対象としてこの「誰一人取り残さない」という理念がどのような意味を持っているのかを考えてみたいと思います。
まず、図に示したのは世界各国の1人あたりの二酸化炭素の年間排出量です。日本では1人あたり8.9トン。その他のいわゆる先進国でも大体1人あたり10トン程度の二酸化炭素を毎年排出している事が分かります。(アメリカはちょっと多いですね。これでも以前よりは大分ましになったのですが...。)
さて、この現状とSDGsのゴール1「貧困を無くそう」、そして「誰一人取り残さない」を並べると
世界の人口77億人が誰一人取り残されることなく先進国なみの豊かな生活を手に入れて1人あたり10トンの二酸化炭素を毎年排出することになり、世界の温室効果ガスの排出量は770億トンを超える
ことになります。現在の温室効果ガスの排出量が330億トン程度ですからその倍以上の温室効果ガスが排出されることを受け入れなければならないのです。これとSDGsのゴール13「気候変動に具体的な対策を」とはどのように折り合いをつければ良いのでしょうか。
出典) EDMC/エネルギー・経済統計要覧2020年版
全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイト(http://www.jccca.org/)より
もう少し具体的な例をイメージしてみましょう。いま、発展途上国に石炭火力発電所の建設計画があったとします。この発電所が出来上がれば多くの人が電力を利用できるようになり、その人たちの暮らしはぐっと改善されるでしょう。しかし石炭火力発電所からは多くの二酸化炭素がでるのですから、温暖化対策の立場からこれを差し止めるべきなのでしょうか。
いや、そこはなにも石炭火力発電所である必要はないでしょう。メガソーラーとかにしては。
確かに長期的にはそうですね。では発展途上国の人にはメガソーラーの準備ができるまで不便な暮らしを辛抱してもらいましょう。
って、これで発展途上国の人は納得できるのでしょうか。自分達は「取り残された」と考えるのではないでしょうか。
こう考えると「誰一人取り残さない」という宣言の持つ意味の大きさ、それを実現することの難しさが分かる様に思います。
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