<以下の記事の内容は片桐教授から2021年2月15日に投稿されたものです。記事の内容に鑑みて時期をずらして公開することとしました(江頭)>
このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。
13日夜11時過ぎに起こったM7.3の地震にはびっくりしました。八王子は震度3、近隣の町田や相模原は震度4でした。わたしがこれまでに経験した最大震度は5弱(鳥取西部地震)でしたので,それよりは小さいものでした。しかし、既に就寝していた上に揺れが長かったので、発表された震度よりも大きな揺れに感じました。15日朝の時点で、福島や宮城を中心にけが人が多数報告されています。皆さんが無事であることをお祈りいたします。
今朝、研究室を確認したところ、薬品等が漏れ出ていることはありませんでした。しかし教授室の窓辺に不安定に積んであった書籍、「元素戦略」「東日本大震災 石巻災害医療の全記録」の2冊が、床に落ちていました。
さて、このような大地震を事前に予知できれば、災害の局限対策に役立ちます。台風については、1964年に設置された富士山レーダーのおかげで、その進路や規模や到来時刻などをかなり正確に予知・予報できるようになりました。これにより多くの人命が救えるようになりました。気象災害の場合、そのインシデントの発生そのものよりも、それに対する行政から住民への周知、そして避難などの人的原因によるリスクが問題になっています。一方、地震の予知・予報は技術的に未だできていません。2004年になって,揺れの数秒前に危険を警告する「緊急地震速報」が実施されています。これが数分前、数時間前、数日前と、台風並みに予知できれば、もっと多くの命や財産を守ることにつながります。
わたしは18歳まで静岡県民でした。「東海地震が来るぞー」と脅かされて育ちました。1969年に東大の先生が東海地震の可能性を指摘し、1978年に「大規模地震対策特別措置法」が試行されました。しかし、まだ大地震の「予知」は技術的にできません。歪み計などの装置に異常が見られたら,地震予知連絡会が招集され、必要に応じて「警戒宣言」を発令するという法的・制度的な整備はそれなりにできています。しかし、それを予知する技術はまだのようです。まだM7クラスの地震の直前予知は行なわれていません。
台風に比べ、大地震の予知が難しい理由は、その再現性の確認の困難さに尽きると思います。東日本大震災クラスの地震は数百年に一度きりしか起こらないので、その観測データと地震の因果関係を検討できません。気象庁の統計ではこの200年間の「被害地震」の発生回数は23回、約9年に一度です。これではなかなか再現性を確認できません。検証できません。
https://www.jishin.go.jp/main/choukihyoka/higaijishin0601.pdf
地震予知の3要素として、「日時」「場所」「規模」があります。責任ある地震予知にはこの3つの予知を求められます。台風の予想ではすでにこの3要素を満たしています。一方、地震ではまだこの3要素を満たす予報は困難なようです。専門家の方々は、実際に発生した地震についてのコメントを発しています。しかし、予報は出していません。また、ネットには多くの「地震を予言」する記事がありますが、オカルト的なものが多く、この3要素をおさえている予言はなく、また、当たりません。
なぜ、地震予知は技術的に難しいのでしょうか?。これは地震がある種の非線形現象であり、不確定な、あるいは小さな要因で不確実化するためと思われます。何かの書籍で読みましたが、地震予知は:「下敷きを左右両側から押していく時に、上に跳ね上がるか,下に跳ね上がるかを予想するようなもの」だそうです。「力を加えていった時に「いつ」跳ね上がるか,「どっちへ」跳ね上がるかを予想することさえ難しいのに、もっと複雑にいろいろな要因の絡む地震は(まだ)予知できない。」だそうです。
それでも、予知したいと思うのは科学者の性です。わたし自身は、直前予知の可能性を探るべく、自分の体調や月齢やその他の気象現象や地震の発生頻度を20年以上観察しています。(2015年までは紙版で記録していました。今はエクセルで記録しています。)
その観察結果は、いくつかの「有意」とは言えないレベルでの経験則的なものを示唆しています。
(1) 月齢について:新月から上弦の前後期間に大きな地震は多いような気がします。今回の13日の地震も2011年の地震もこの期間内でした。
(2) 大きな地震の前(数週間)にやはり大きな地震があるように思います:今回の地震の2日前の11日にバヌアツでM7.7の大地震が起きています。また2011年の地震の2〜3週間前にニュージーランドで日本人留学生が巻き込まれた地震が起きています。
(3) 地震の少し前から私の体調が悪くなる(疲労感が激しくなる)。片桐はナマズなのかも知れません。
しかし、いずれの観察も,必要条件でもなければ十分条件でもありません。先の(1)の期間以外でも大きな地震は起こりますし、バヌアツの方で大きな地震が起きた後に日本で必ず大きな地震が起こるわけではありません。まして、私の体調は「気のせい」レベルでしかありません。
このような事象と地震発生の関係は、「疑似相関」とさえいえないようなものとは思います。しかし、その潜伏変数が明らかになれば、地震予知に役立つのかもしれません。
12日の卒論発表会のために坂の上の会場へ向かう道すがら、息を切らしながら片桐は江頭先生へ「今日は体調が悪いから地震に注意かも。でも、未明にバヌアツで大きな地震があったから、これかな」と軽口をなにげに話していました。
信じようと信じまいと…
<この2月12日、卒論発表会の会話の後、13日に実際に地震が起きたというわけです。これは2011年の東北地方太平洋沖地震の余震であり、引き続き余震が起こる可能性が指摘されていました。 (江頭)>
片桐 利真