東京工科大学工学部に「サステイナブル工学科」がない訳(江頭教授)
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本日(4月19日)の1限から今年度の「サステイナブル工学基礎」の授業が開始されます。対象は本学工学部の2年生。本学工学部は我々応用化学科の他に機械工学科、電気電子工学科を合わせて3学科体制ですが、この授業は全ての学科の学生が受講する必修の授業となっています。かなり特別な扱いなのですが、それもそのはず。工学部のWEBサイトをみると本学工学部の「三つの特徴」の一つとして「サステイナブル工学」があげられているくらいなのですから。
そんなに重視しているなら「サステイナブル工学科」というのが有るのでは...と思う人も居るかも知れません。でも、本学工学部には「サステイナブル工学科」はありません。これは「サステイナブル工学」とは何か、という基本的な考え方に関わっているポイントなので、今回の「サステイナブル工学基礎」の授業でも説明しておきたいところです。
現在の文明社会がサステイナブルではない、その最大の要因の一つは地球温暖化問題だと言って良いでしょう。この地球温暖化問題を具体例として考えてみましょう。温暖化の原因は大気中の二酸化炭素濃度の上昇だと考えられますから、この二酸化炭素を何とかすれば問題は解決します。
大気中の二酸化炭素を吸着して集める技術、集めた二酸化炭素を大気から隔絶された状況に閉じ込める技術、あるいは二酸化炭素を保存可能な形態に変換する技術、等々。地球温暖化問題への対策はいくつか思いつくことができます。これらの対策を進めるための研究がサステイナブル工学だ、と考えればサステイナブル工学科をつくるというのは良いアイデアのように思えます。
とはいえ、このような対症療法的な対応で本当に温暖化問題を解決できるのでしょうか?二酸化炭素が排出されるのは化石燃料の利用が原因であり、それはエネルギー利用と直結しています。安価で大量のエネルギーの利用は人々の生活の基盤そのものであって、小手先で解決できるような問題だとはとても思えないのです。
二酸化炭素を排出する原因を作っている今までの工学はそのままで、それにプラスして二酸化炭素を回収する工学をつくる、というのは二酸化炭素がごく例外的な排出物で量が少ないならともかく、実際には人間が最も大量に放出している廃棄物の一つなのです。
このような規模の大きな問題を解決しようと考えたなら個別の工学科をつくってそこに任せるだけではなく、すべての学科が対策にとりくむことが必要です。効率的な機械で省エネルギー、インテリジェントな制御で省電力、新しい素材で省資源など、すべての工学が一体となった取り組みが必要でしょう。いえ、工学や産業だけでなく一般の生活者や企業の姿勢も問われるはずです。
すこし話が大きくなりすぎましたが、いずれにしても「サステイナブル工学」は工学部すべての学科の学生が学ぶもの。「サステイナブル工学科」をつくってそこに責任を押し付けて済ませるようなものではないのですね。
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