プラスチックのリサイクル(その2)(江頭教授)
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前回の記事ではプラスチックの理想的なリサイクルについて説明しました。とは言っても40年前の理想論。それが今では普通に実現している、というお話しでした。今回は、この普通の理想論が成り立たないケースについて考えてみましょう。
まず「普通の理想論」についてまとめましょう。
大部分の石油は燃料としてエネルギーを得るために使われる。その一部を使ってプラスチックを作ると、石油から得られるエネルギーは少し減るが、プラスチックごみを回収してごみ発電を行えばエネルギーを回収できる。
これが理想的なプラスチックのリサイクルの考え方です。
このやり方が本当に理想的になるためには
- 石油を燃焼して得られるエネルギーと、石油をプラスチックにしてから燃やして得られるエネルギーが同じであること
- 使用したプラスチックが完全に回収されること
という二つの条件が満たされる必要があります。
「理想的」というのは「現実的には不可能」という意味だ、という言い方もあるくらいで、この条件が完全に満たされることはありません。
とはいえ、だからダメだ、というのも極論でしょう。一つ目の条件、二つ目の条件がどの程度実現されるのか。それを定量的に評価することが一つ。もう一つ重要なのは、他のリサイクル方法と比べて有利か不利かを考えてみるこです。ごみ発電を利用するリサイクル方法が完全に理想的にはならないように、他のリサイクル方法(例えば高分子をモノマーに分解して再度従業させてリサイクルする方法)もまた、当然ながら理想的にはなりません。どの方法が優れているかはある程度は理論から予測し、その先は実証実験によって確かめることが必要なのです。
さらに注目すべきなのは、どのようなリサイクル方法を考えたとしても二つ目の条件「使用したプラスチックが完全に回収されること」が充分に満たされない場合にはリサイクルは絵に描いた餅になってしまう、ということでしょう。
40年前の日本は使用済みプラスチックの回収ができない国だったのですが、今では高い回収率を達成しています。ですが、世界全体をみればまだまだ回収が難しい国もあることは事実です。もしそれらの国で回収率を上げることができないならば、プラスチックごみの問題はリサイクルでは解決できないことになります。プラスチック利用の全面禁止という意見には暗にこのような前提があるのでしょう。
とはいえ普通に考えれば日本でできていることが他の国ではできないとは考えられません。ですから、世界全体での回収率を上げてプラスチックのリサイクルシステムをつくることは可能だと私には思えます。
はて、プラスチック利用の全面禁止を訴える人たちはこの点をどう考えているのでしょうか。
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