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映画「タイムマシン」(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 えっ、「タイムマシン」ってそんなタイトルで良いの?などと思う人もいるかも知れません。でも大丈夫。この映画はH.G.ウェルズのSF小説「タイムマシン」の映画化で、タイムマシンという言葉、というかタイムマシンという概念そのものがこのウェルズの小説から広まったもの。いっそ「元祖 タイムマシン」とか「本家 タイムマシン」でも良いくらいなのです。

 H.G.ウェルズの「タイムマシン」の映画化は2002年のものもありますが、こちらは1959年制作のもの。監督はジョージ・パルで同じくH.G.ウェルズの「宇宙戦争」の映画化でも有名な監督です。

 1899年の大みそかのロンドン、タイムマシンを発明した主人公が80万年未来の世界での冒険を友人たちに語る、というのが物語の筋立て。主人公は未来世界で理想郷のような暮らしを送っている人類の子孫、イーロイ人と出会います。しかし未来世界の地下には人類のもう一つの子孫であるモーロック人が住んでいる。両種族の関係には身の毛もよだつような秘密が...、という展開です。

 なんだ、タイムマシンを使った異世界ものか。と思うかもしれません。ですが、この映画のなかで80万年後の世界での冒険の比重は、じつはそれほど大きくはありません。

Poster_for_the_1960_film_the_time_machin

 物語上の現在、1899年から主人公が未来に移動しながら、その後の歴史の展開を目撃する、という展開に実は結構な尺が使われています。第一次大戦、第二次大戦という物語上では未来、観客からしたら過去の戦争の描写に続いて、1966年の戦争、つまり映画の本来の観客からみれば未来の、それも近未来の戦争の描写があるのです。

 この映画で描かれる1966年の架空の戦争は、おそらくは世界規模の全面核戦争です。つまり、映画「タイムマシン」で描かれる80万年後の世界は、全面核戦争後の世界なのです。

 核戦争で汚染された地上から地下のシェルターに逃げ込んで生き残った人類。その一部は危険を承知で地上に出てイーロイ人となり、そして地下に残った人々はモーロック人となった。核戦争後の世界を生き残ろうとする両者は、結果として非人間的な生態系を作り上げているのです。

 さて、この映画が作成されたのは1959年。東西冷戦の真っただ中であり、核戦争による世界の危機がひしひしと実感できた時代だったのでしょう。このような娯楽映画の中でも、「未来と言えば核戦争」という時代の意識が反映されていたのだと思います。

江頭 靖幸

 

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