このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。
やっと新型コロナワクチンが輸入されて、医療従事者→後期高齢者→基礎疾患保持者→その他成人、の順で接種できるそうです。2021年5月7日の記事によると(https://www.jiji.com/jc/article?k=2021032700421)約8割の人が接種を希望している一方で、2割の人は接種したくないとのことです。そして、その中で一番多い理由はワクチンの副反応リスクだそうです。
ワクチン接種には確かにリスクがあります。ワクチンはヒトの複雑なフィードバックからなる免疫機構への人工的な介入です。そして、免疫系は人それぞれ微妙に異なるものです。だから、ワクチンの副反応の程度も人それぞれです。まれにアナフィラキシーショックを起こすという報道、接種後の血栓等による死亡例の報道があると、そのリスクはとても大きなものに感じられてしまいます。さらに、今回の新型コロナワクチンは「ヒト遺伝子を組み替えてしまうワクチン」だという恐ろしいコメントもネット上で散見されます。でもそれを言えば、ウイルスへの感染そのものも、RNAをヒト細胞に注入し、その細胞内でウイルスは増えるのですから、より積極的な遺伝子組み換えです。しかも、ワクチンとは異なり、ウイルスは体内で増え続けますから、より厄介です。
ワクチンは、感染前に弱毒化したウイルスやウイルスの部品をその人の免疫系に予習させておき、実際に感染した時、すぐに臨戦態勢になれるようにして、ウイルスとそれに感染した細胞を破壊できるようにするためのものです。つまり,免疫系にそのウイルスを予習させておくわけです。ですから、ワクチンを接種すれば、免疫系が活性化し、いろいろな症状=副反応を起こすことは想像に難くありません。ワクチンには間違いなく副反応のリスクがあります。あとはウイルスに感染した場合の被害リスクとワクチンのリスクとの定量的な比較評価です。ここで、リスク=「被害」×「発生確率」で定量的に見積ることのできる尺度です。
ワクチンの接種状況は4月9日で160 万件(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_sesshujisseki.html)、死亡例は同日までに9件(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000775315.pdf)ですので、死亡リスクは1/170,000と見積られます。一方、「東京都のCOVID-19死亡者数」/「東京都の人口」= 1,903 / 14,000,000 ですので、現時点で1/7,357 と見積られます。これは結構大きな数値です。感染者が都民の約1%のこの現時点ですら、ワクチンの23倍のリスクです。まだまだ感染は拡大するでしょう。もし、アメリカのように感染者の数が人口の10%程度になれば、リスクの大きさは1/730 にまで高まるかもしれません。そのような統計的に大きなリスクの違いがあるにもかかわらず、ワクチンのリスクが大きく取り上げられることは、興味深いですね。
2桁〜3桁のリスクの差があるにもかかわらず、ワクチンが怖いと思うのはなぜでしょうか。これは、「小さな危険を大きな危険と誤解するSlovicの11因子」にこのワクチンが引っかかるからでしょう(ブログ2016.8.12 http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2016/08/post-f417.html)。人工的に作られたワクチンは実際よりも1000倍恐ろしく感じられるのでしょう。
さらに、ワクチンを打てば必ず副反応のリスク、打たずに感染すれば重症化し易いというリスク、とどちらの場合でも「損」をする場合、人間心理として「一か八か」、つまりワクチンを打たずに、新型コロナにかからない可能性に賭ける方を選択肢として選ぶ、というカーネマンのプロスペクト理論も働きます(これはこれまでのブログでは扱っていませんが、安全工学の実際の講義(第4回)で述べています)。
この理論は「人間は目の前の利益に対して、利益が手に入らないリスクの回避を優先する。一方、目の前の損失に対して、損失そのものを回避しようとする」というものです。「小さなリスクを回避できないワクチンよりも、大きな被害の可能性があるとしてもワクチンを打たずに、新型コロナに感染しない可能性に賭けてしまう」ということでしょうか。さらに、定量的にではなく「定性的」に考えると、ワクチンを打たない選択になってしまうということでしょう。
皆がワクチンを接種し、集団免疫ができれば感染拡大は防げます。つまり、そのような集団的なリスク回避の効果もあります。今回の新型コロナワクチンが臨時接種として行なわれ、うける側は無料であり、自治体は接種を推進する義務を負うのは、そのような集団免疫の形成を目指しているからでしょう。
最初に申しましたように、ワクチンは個人個人で異なる免疫系への介入で、その副反応は個人で異なります。実際、ワクチンの大きなリスクを避けるために予防接種の前に、医師による問診があります。
まだ順番が回ってくるまでには時間があります。安全工学を学んだ皆さんには、最後は自分で勉強して、それぞれの選択のリスクを自分で考えて、自分の判断と決断で接種をうけてもらいたいと思います。
新型コロナから逃げ延びましょう。皆様、ご自愛ください。
片桐 利真