« 2021年4月 | トップページ | 2021年6月 »

2021年5月

2021.05.31

「事故の無い世界」は作れるのか(江頭教授)

|

 本学の1年生向けの授業「フレッシャーズゼミ」は少人数制の授業。10名程度の学生さんが先生と一緒にグループワークを中心とした課題に取り組むものですが、そのなかの安全教育の一環として「ヒヤリハット報告書」の作成が課題となっています。授業を前にこの課題を準備しながらふと考えました。はたして「事故の無い世界」をつくることはできるのでしょうか。

 ずいぶん前にこのブログに書いた記事「化学薬品と爆発」がそのヒントになるかも知れません。

 こちらの記事は2015年8月に起こった天津市の爆発事故をきっかけに書いたものですが、いまなら2020年の8月4日、レバノンのベイルートの港での爆発事故も類似の具体例だと言えるでしょう。貯蔵されていた化学物質による爆発事故の話題です。

 まず、天津市の爆発事故、ベイルートの港での爆発事故ですが、この様な事故を防ぐことは可能だったと私は考えています。前者はシアン化ナトリウム、後者は硝酸アンモニウムが原因であると考えられていますが、いずれも不適切な取扱が原因となった事故です。このような事故に対して徹底した対策をとれば今後は事故を防ぐことができるだろう。世の中の誰もがその様に考えるはずですし、その様に努力しているはずです。

 であれば、やがてはその努力が実って「事故の無い世界」が作れるのではないでしょうか。

Bakuhatsu

続きを読む "「事故の無い世界」は作れるのか(江頭教授)"続きを読む

2021.05.28

「NHKスペシャル 2030 未来への分岐点 (2)飽食の悪夢~水・食糧クライシス~」(江頭教授)

|

 今回は「NHKスペシャル 2030 未来への分岐点」の第2回「飽食の悪夢~水・食糧クライシス~」の感想です。

 そもそもこの番組はNHKで今年(2021年)の2月7日に放送されたものだそうです。私が見たのは5月8日の再放送されたものが、たまたま録画されていたからでした。途中ニュースを挟んで前後編各50分という長尺で、かなりの情報量。その分整理が追いついていないのかいろいろな話が雑に並べられている様にも見えてしまいます。大まかに前半が現在の世界の食料生産システムの問題。後半はその解決策を模索する、という流れになっています。

 前半では「世界の農業システムは全人類に充分行き渡るだけの食料を生産していること」を述べていて、それにもかかわらず「食料が手に入らずに困っている人が大勢いる」のだ、という問題を指摘しています。そして後半では「先進国(日本を含む)の人々の飽食、要するに食べ過ぎがその原因だ」としているのです。

 あのー、これっておかしくないですか?

Photo_20210509182701

続きを読む "「NHKスペシャル 2030 未来への分岐点 (2)飽食の悪夢~水・食糧クライシス~」(江頭教授)"続きを読む

2021.05.27

東京工科大学のハラスメント対策(江頭教授)

|

 前回の記事で私の考える「ハラスメント」の起こる仕組みを説明しました。出発点は自分自身の経験ですが「誰が何を嫌がるか、完全に予測することはできない」と私は思います。だとすると、ある人が別の人が嫌がる行為をしてしまうことを完全に防ぐことは不可能です。普通は嫌がる行為をされた人が、その行為をした人に「止めてくれ」という。それで問題解決、というのが一番簡単なケース。

 ですが、人間関係にはいろいろ立場があって「止めてくれ」と言いにくい関係もある。それが「ハラスメント」の原因だ、というのが私の考えるハラスメントです。

 では、ハラスメントにどう対応すれば良いのでしょうか。間に第三者に入ってもらうのが良いですよね。この第三者、ケースバイケースでいろいろに相応しいひとがいると思います。でも、大学という組織の中で、学生という立場で、それに相応しい人を見つけるのが難しいケースもあるでしょう。ということで、本学にはハラスメントに関する相談窓口が用意されています。

Kaigi_shinken_people

続きを読む "東京工科大学のハラスメント対策(江頭教授)"続きを読む

2021.05.26

私の考える「ハラスメントが起こる仕組み」(江頭教授)

|

 前回の記事では私が子供の時にみた情景が切っ掛けで「かぼちゃと甲虫」のイメージに恐怖を感じるようになったという話を紹介しました。「自分でも全く理解できず、まして他人には理解も予測も不可能な嫌なことがある」というお話し。もしかしたら何かのタイミングでその恐怖がぶり返すかも知れません。これはおそらく私に限った話でなく、もし自分の何気ない行動が誰かのそんな恐怖心を刺激してしまったら、それはいじめになってしまうのでは...。

 で、私の結論はこうです。

 わざわざ難しく考える必要はありませんね。「その人に嫌な思いをさせること」はあるでしょう。そして防ぐことはできません。ですが、人間には言葉ありますから「やめてくれ」と言えばよいのです。そこで言われたら止める。もし言われてもやめなかったら、そこではじめて「いじめ」になるのです。

いや、世の中には心底意地悪な人もいるかも。という議論はさておいて、もし意地悪な人がいないとしても問題が起こることはある。それが「ハラスメント」だと私は思います。

Business_kaisya_pawahara_man

続きを読む "私の考える「ハラスメントが起こる仕組み」(江頭教授)"続きを読む

2021.05.25

かぼちゃと甲虫(江頭教授)

|

 この記事を書くのには苦労しました。裏庭に植えてあったかぼちゃの蔓にかぼちゃが実っていました。これに虫(甲虫の小さい奴)が食いついてかじっていたのです...あーもう無理!

 なんの話かって?いや、上の話は私が小学生高学年(もしかしたら中学生)の子供のころの体験談で実話。私はその情景をみて心底恐ろしく感じたのです。「身の毛がよだつ」とか「背筋が凍る」とか。お話としては聞く表現なのですが実際にそれを体験するとは。いまから少なくとも45年前の体験ですが、それでも思い出すだけで気分が悪くなる。だから、いまこのブログに当時のことを書くのも命がけ、はさすがにオーバーですが、一苦労ではあるのです。

 さて、この「かぼちゃと甲虫」のどこがそんなに恐ろしかったのでしょうか。今回のブログのポイントはまさにそこで、特に恐ろしく感じる様な客観的な特徴がない。全く思いつかないのです。何か別のものを連想して恐ろしいとか、何か恐ろしい体験を思い出して怖いとか、そんなことも全くありません。(いや、本当はすごく恐ろしい体験をしていて記憶が封印されているのかもしれませんが…。)

 虫が嫌いな人はそれなりにいるのですが私はどちらかというと虫が好きな方。少年時代は昆虫の造形にワクワクしたタイプです。かぼちゃは…、最近のかぼちゃは甘くておいしいですよね。(そこじゃない!)なにはともあれ、まったく自分でもまったく理由が分からないのですが、この「かぼちゃと甲虫」という情景だけは全く受け付けないのです。

 要するに私には「自分でも全く理解できず、まして他人には理解も予測も不可能な嫌なことがある」のです。

Vegetable_kabocha

続きを読む "かぼちゃと甲虫(江頭教授)"続きを読む

2021.05.24

授業「サステイナブル工学基礎」の構成(その3)(江頭教授)

|

 本学の工学部が掲げる「サステイナブル工学」、その最初の授業として本学2年生が履修している授業が「サステイナブル工学基礎」です。前々回の記事ではこの授業の前半で「Sustainable Development (持続可能な発展)」の概念と今の社会の持続可能性を妨げる地球環境問題・エネルギー問題を解説することを紹介しました。また前回の記事では授業の後半で工業製品やサービスに対するライフサイクルアセスメントによる環境負荷・資源消費の定量的な評価の説明をし、そして工業製品やサービスの価値の評価の可能性を検討して、両者のバランスをどの様にとるべきかについての考察することを示しました。またこの授業の中で行われている学内施設見学(ここ2年間はコロナウイルス感染症の影響で実施できていませんが)についてもこの記事で紹介しています。今回はこの「サステイナブル工学基礎」の授業の後半で行うグループワークについて紹介しましょう。

 この授業では前半・後半の終了時に2回のグループワークを行います。その準備段階としてそれぞれの授業内容を簡単に復習したあと、各自が授業内容をまとめたワークシートを作成します。グループワークではそのワークシートを手元に置いて、その内容のうち、選ばれた項目について各自の意見を説明、グループとしての意見をまとめたレポートを作成して提出します。

Photo_20210518081301

 

続きを読む "授業「サステイナブル工学基礎」の構成(その3)(江頭教授)"続きを読む

2021.05.21

授業「サステイナブル工学基礎」の構成(その2)(江頭教授)

|

 本学の工学部が掲げる「サステイナブル工学」、その最初の授業として本学2年生が履修している授業が「サステイナブル工学基礎」です。今回もこの「サステイナブル工学基礎」の授業内容について紹介しましょう。

 授業前半の内容は前回の記事で紹介しましたので今回は後半の授業について。まず後半では教科書の目次にもある以下のテーマが対象となります。

7. ライフサイクルアセスメント
8. 製品の環境効率評価
9. サステイナビリティの評価
10. サステイナブル工学の展望

7章で取り上げる「ライフサイクルアセスメント」についてはこのブログでも触れたことがあると思います。一つの製品やサービスを対象に考えてみましょう。「その製品の有る世界」と「その製品の無い世界」を比べたとき両者にはどのような違いがあるのでしょうか。ライフサイクルアセスメントはその二つの世界の差を資源の枯渇や環境負荷などで評価するものです。「その製品の有る世界」では「その製品の無い世界」より○○kgの二酸化炭素が過剰に大気中に排出されると考えられる、といった評価です。「ライフサイクル」と強調されているのはその製品が使われている場面での環境負荷だけに注目するのではなく、製品が作られ、使われ、廃棄されるまで、その製品の一生すべての過程(ライフサイクル)を評価に含めるからです。

Sustainable_1_img_20210308072401 

続きを読む "授業「サステイナブル工学基礎」の構成(その2)(江頭教授)"続きを読む

2021.05.20

授業「サステイナブル工学基礎」の構成(その1)(江頭教授)

|

 昨日の記事で本学工学部2年生の授業「サステイナブル工学基礎」での学内施設の見学について紹介しました。(もっとも昨年、今年と実施できなかったのですが。)でも、よく考えると「サステイナブル工学基礎」がどんな授業だか説明していなかったような。今回は「サステイナブル工学基礎」の内容を紹介しましょう。


 この授業には指定の教科書があります。その名もズバリ「サステイナブル工学基礎」です。

良くそのものズバリの教科書があったものですね。

そう思った人もいらっしゃるかも。じつはこの本は本学のこの授業のために我々東京工科大学工学部の教員で書き下ろした教科書なのです。

 さて、教科書の目次をみてゆきましょう。

1. サステイナブル工学入門
2. 環境問題の現状
3. エネルギー問題の動向

 第1章では国連のブルントラント委員会の報告書 Our Common Future に登場した Sustainable Development という概念の説明からスタート。第2,3章は我々の共通の未来の課題のなかでも最大級のものである環境問題、とくに温暖化問題とそれに密接に関連したエネルギー資源の問題を紹介しています。「サステイナブル工学基礎」の最初の3回の授業はこの教科書の各章を一回づつ解説してゆきます。

 つづく3章は以下に

Photo_20210517231002

続きを読む "授業「サステイナブル工学基礎」の構成(その1)(江頭教授)"続きを読む

2021.05.19

「サステイナブル工学基礎」の施設見学(江頭教授)

|

 本学の工学部が掲げる「サステイナブル工学」、その最初の授業として本学2年生が履修している授業が「サステイナブル工学基礎」です。例年なら今頃「サステイナブル工学基礎」の授業の一環として行われている「学内施設見学」について紹介するところです。

 例えば、本学とキャンパスを共有している専門学校の施設である「スマートハウス実習棟」。太陽電池が乗っている建物です。太陽電池パネルで電力すること、建物の断熱性を高めて冷暖房の必要エネルギーを削減すること、地中にたまった熱を熱源として用いることで消費エネルギー以上の暖房効果を実現すること、などいろいろな家庭向けエネルギー関連技術の設備があり、その運用や施工方法を学ぶ場所となっています。

 見学の風景はこんな感じ。これは2018年の写真です。

Img_2526

 そして本学の研究等A・Bの地下にある自家発電のシステム。こえはコージェネレーションシステムで、発電に際して生じる廃熱を利用することで全体効率を高めています。

 本学の空調施設には実は3台の大型発電機が設置されています。この発電機で燃料の約30%のエネルギーを電気に変えて大学の建物に供給し、残った熱を空調施設で利用することでさらに30%のエネルギーを有効に使っています。全体では60%程度という非常に高い効率が達成されています。

Img_2527

 こちらの写真も2018年のものです。

 さて、最後に廃棄物の集積所を見学しておわる、というのが「サステイナブル工学基礎」で行っている学内施設の内容でした。

 

続きを読む "「サステイナブル工学基礎」の施設見学(江頭教授)"続きを読む

2021.05.18

私企業が社会の基盤技術の開発に取り組む意義(江頭教授)

|

 先日の記事で飲料メーカーのサントリーがペットボトルの「100%サステイナブル化」を目標として「バイオマスや廃プラスチックなど、炭素を含む原料を触媒を使って熱分解し、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの混合物)や炭化水素、COを含むガス(合成ガス)を作り出すプロセス」の研究・開発に参画しているという話を紹介しました。BTXを使ってペットボトルの素材であるPET樹脂をつくるのです。もっともサントリーが工場をつくっている訳ではないらしく主体は「米国バイオ化学ベンチャー企業・アネロテック社」のようです。

 さて、この研究はプラスチック類の製造に必要とされる石油に変わって短期的には廃プラスチックを、長期的にはバイオマスを利用することで石油に依存しないプラスチック生産を目指す、という技術です。サステイナブルな社会を構築するためには非常に重要な技術なのですから、これを一企業(今回はグループですが)に任せておいて良いのでしょうか。このような大切な技術開発が巧くいかなかったら大変ですし、逆にもし巧くいったときその技術が独占されるのも問題でしょう。ここは国家プロジェクトとして日の丸大連合で研究を強力に推し進め...という話にはなっていませんよね。

Photo_20210516084901

続きを読む "私企業が社会の基盤技術の開発に取り組む意義(江頭教授)"続きを読む

2021.05.17

「再生可能エネルギーのインパクトはどのくらい?」追記 エネルギー白書2016と2017を比べてみる(江頭教授)

|

 前回の記事では「再生可能エネルギーのインパクトはどのくらい?」と題してエネルギー白書2020からいくつかのグラフを引用しました。中でも「【第221-1-3】世界のエネルギー消費量の推移(エネルギー源別、一次エネルギー)」という図は重要で「全一次エネルギーに対して再生可能エネルギーの占める割合はまだ4.0%に過ぎません。(中略)再生可能エネルギーの存在感を持つのはこれからの様です。」と結論づけました。

 定性的に「再生可能エネルギーの存在感を持つのはこれから」というのはエネルギー白書2019でも同じ。2018でも2017でも同じです。下の図はエネルギー白書2017の図で、定量的に「全一次エネルギーに対して再生可能エネルギーの占める割合はまだ2.8%に過ぎません。」となっていて、まだまだ感が強いですね。

Photo_20210509075101

ところがエネルギー白書2016には少し違ったグラフが示されています。2017以降にはなかった「可燃性再生可能エネルギー他」という項目があってそれが10.1%もあるのです。いや、再生可能エネルギーも結構な割合で使われているのでは…。

Photo_20210509074801

 エネルギー白書の同じ章、同じ図番号、同じタイトルで出てくるグラフなのですが、2016年以前と2017年以降には少々違いがあるのです。

続きを読む "「再生可能エネルギーのインパクトはどのくらい?」追記 エネルギー白書2016と2017を比べてみる(江頭教授)"続きを読む

2021.05.14

再生可能エネルギーのインパクトはどのくらい?(エネルギー白書2020より)(江頭教授)

|

 エネルギー白書については先日の記事でも少し紹介しました。また以前にはエネルギー白書をもとに「再生可能エネルギーのインパクトはどのくらい?」という記事を書きましたが、これはエネルギー白書2019のデータに基づいて書いたもの。最新のエネルギー白書は2020なのでアップデートしよう、というのが今回の記事です。

 ということで今回は再生可能エネルギー の普及状況について。まずは代表的な再生可能エネルギーである太陽光発電の世界での導入量。エネルギー白書2019にも同じ図がありますが、当時の導入量は40,329万kWでした。グラフを見てもわかりますが、どんどん成長していることがわかります。でも新型コロナの影響は...おっと、このデータは2018年のものなのでコロナは関係なし。この手の統計データには少しタイムラグがあるのです。新型コロナの影響が分かるのはエネルギー白書2022になるでしょう。

エネルギー白書2020より【第222-2-11】世界の太陽光発電の導入状況(累積導入量の推移)

Photo_20210506080601

なお、エネルギー白書2020には注釈として「出典:IEA「PVPS TRENDS 2019」を基に作成」とある。

では、再生可能エネルギーのもう一つの代表である風力はどうでしょう。

エネルギー白書2020より 【第222-2-12】世界の風力発電の導入状況

 

Photo_20210506080901

なおエネルギー白書2020には注釈として「出典:Global Wind Energy Council (GWEC)「Global Wind Report(各年)」を基に作成」とある。

 こちらの最新データは2019となっていますから太陽光より一年進んだ状況を見ています。エネルギー白書2019での最新だった2018でのデータは59,155万kWだったものが65,058万kWとなっています。順調に増加していると言えるでしょう。絶対値では太陽光より上ですが、上昇速度では負けている様で、近いうちに太陽光発電に追い抜かれるかもしれません。

 今回も「世は正に大 再生可能エネルギー時代!」という印象です。では他のエネルギー源とくらべてこれら(水力以外の)再生可能エネルギー源はどのくらいの存在感があるのでしょうか。

 

続きを読む "再生可能エネルギーのインパクトはどのくらい?(エネルギー白書2020より)(江頭教授)"続きを読む

2021.05.13

本年度第二回の「全学教職員会」が開催されました(江頭教授)

|

 先日本年度第一回の「全学教職員会」について紹介しました。「全学教職員会」はその名前通り本学の教員のみならず、職員も含めて全員参加する講演会形式の会議。本学の全員(学生は除きますが、)が一同に会して全体の意識を合わせて行く場です。とはいえ本学には我々工学部応用化学科がある八王子キャンパスとともに蒲田キャンパスもあります。同じ都内とはいってもそれなりの距離離れているキャンパスをいききするのは結構大変ですから、この「全学教職員会」では両キャンパスの会場の間で相互に映像配信を行い、それによって同時開催を実現しています。

 前回はまさに上に書いたように(キャンパスごとですが)全員が一同に会する場として対面で行う事ができたのですが、残念、今回はまた Zoom でのオンライン開催に戻ってしまいました。

 さて、今回5月12日の全学教職員会では各学部・研究科の運営方針を紹介するという場。前回にも増して多くの登壇者が登場しました。

Photo_20210512170601

続きを読む "本年度第二回の「全学教職員会」が開催されました(江頭教授)"続きを読む

2021.05.12

「マイナスの価格」なんてあり得るのか?(江頭教授)

|

 先日の記事で「マイナスの原油価格」について紹介しました。昨年の4月、新型コロナウイルスの感染拡大が欧米で本格的に問題となり始めたころの話。その影響を受けた国際原油価格はどんどん下落。ついには0ドル/バレルに到達した、ばかりか、ついにはマイナスになってしまったというのです。

 単純素朴にそんな話ってあるのでしょうか?モノを買うのにお金が少ししか要らない、というのは分かります。モノを買うのにお金が全く要らない、というのもギリギリありとしましょう。でもモノを買うとお金がもらえるって、そんなバカな。

 マイナスの価格のモノがあったら誰もがそれを購入してお金を手に入れようとするでしょう。どんどん売れてあっという間に市場からなくなってしまうはず

なのですが、あの時の原油というものはお金をもらっても手元に置いておきたくないモノだった、ということなのでしょう。つまり利用価値はないのに手放すためにお金が必要なモノ。敢えて言ってしまえば処理に費用のかかる廃棄物のように見えたのですね。

 

Pop_bikkuri

続きを読む "「マイナスの価格」なんてあり得るのか?(江頭教授)"続きを読む

2021.05.11

エネルギー白書もビックリ!「マイナスの原油価格」から1年(江頭教授)

|

 皆さんはエネルギー白書(正確には「令和元年度エネルギーに関する年次報告」といいます)をご存じでしょうか。経済産業省の資源エネルギー庁が毎年まとめている白書で、日本や世界のエネルギー関係の動向や日本政府の政策について最新の情報に触れることができてとても便利。私も授業のなかでたびたび引用させてもらっています。

 さて、今(2021年5月)時点で最新のエネルギー白書は令和元年度版の「エネルギー白書2020」です。なんか和暦と西暦がずれているような気もするのですが…。これは令和元年度に実施した政策を2020年に振り返る、ということの様です。今回はこの最新版のエネルギー白書2020で面白い記述を見つけた、というお話です。対象は「【第222-1-11】国際原油価格の推移」という図とその解説の部分。まずは、これがどんな図なのか説明しましょう。

 エネルギー白書は例年、第一部が特集、第二部が資料編、第三部が政策各論、といった構成になっています(いや、そいういう名前ではないのですが。)今回の図は第二部の資料編(正しいタイトルは「エネルギー動向」)の一部。「第2章 国際エネルギー動向」の「第2節 一次エネルギーの動向」「1.化石エネルギーの動向」「(1) 石油」「⑤原油価格の動向」にある図で、要するに日本が輸入する石油の価格についてまとめた図です。

 さて、この図についている説明文はこんな感じ

原油価格は、これまでも大きな変動を繰り返してきました。2000年代半ば以降(中略、筆者による)2011年から2014年までの年間平均価格は、ブレント原油で1バレル99ドルから112ドル、WTI原油で93ドルから98ドルの範囲で推移しました(第222-1-11)。

古いほうから図を読み下して、それぞれの年代のイベントを説明する構成になっています。図をまたいでさらに説明が

Photo_20210505102901

 

続きを読む "エネルギー白書もビックリ!「マイナスの原油価格」から1年(江頭教授)"続きを読む

2021.05.10

デマを拡散しないように- 25 ワクチンを躊躇する心:スロビックの11因子とカーネマンのプロスペクト理論(片桐教授)

|

 このブログの内容を不用意に拡散しないように。必要なら必ず裏をとり、引用文献などを読んで自分で確認し、理解し、検証してから、自分の言葉として発信しましょう。他人のことばをそのまま鵜呑みにするのは極めて危険な行為です。

 やっと新型コロナワクチンが輸入されて、医療従事者→後期高齢者→基礎疾患保持者→その他成人、の順で接種できるそうです。2021年5月7日の記事によると(https://www.jiji.com/jc/article?k=2021032700421)約8割の人が接種を希望している一方で、2割の人は接種したくないとのことです。そして、その中で一番多い理由はワクチンの副反応リスクだそうです。

 ワクチン接種には確かにリスクがあります。ワクチンはヒトの複雑なフィードバックからなる免疫機構への人工的な介入です。そして、免疫系は人それぞれ微妙に異なるものです。だから、ワクチンの副反応の程度も人それぞれです。まれにアナフィラキシーショックを起こすという報道、接種後の血栓等による死亡例の報道があると、そのリスクはとても大きなものに感じられてしまいます。さらに、今回の新型コロナワクチンは「ヒト遺伝子を組み替えてしまうワクチン」だという恐ろしいコメントもネット上で散見されます。でもそれを言えば、ウイルスへの感染そのものも、RNAをヒト細胞に注入し、その細胞内でウイルスは増えるのですから、より積極的な遺伝子組み換えです。しかも、ワクチンとは異なり、ウイルスは体内で増え続けますから、より厄介です。

 ワクチンは、感染前に弱毒化したウイルスやウイルスの部品をその人の免疫系に予習させておき、実際に感染した時、すぐに臨戦態勢になれるようにして、ウイルスとそれに感染した細胞を破壊できるようにするためのものです。つまり,免疫系にそのウイルスを予習させておくわけです。ですから、ワクチンを接種すれば、免疫系が活性化し、いろいろな症状=副反応を起こすことは想像に難くありません。ワクチンには間違いなく副反応のリスクがあります。あとはウイルスに感染した場合の被害リスクとワクチンのリスクとの定量的な比較評価です。ここで、リスク=「被害」×「発生確率」で定量的に見積ることのできる尺度です。

 ワクチンの接種状況は4月9日で160 万件(https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_sesshujisseki.html)、死亡例は同日までに9件(https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000775315.pdf)ですので、死亡リスクは1/170,000と見積られます。一方、「東京都のCOVID-19死亡者数」/「東京都の人口」= 1,903 / 14,000,000 ですので、現時点で1/7,357 と見積られます。これは結構大きな数値です。感染者が都民の約1%のこの現時点ですら、ワクチンの23倍のリスクです。まだまだ感染は拡大するでしょう。もし、アメリカのように感染者の数が人口の10%程度になれば、リスクの大きさは1/730 にまで高まるかもしれません。そのような統計的に大きなリスクの違いがあるにもかかわらず、ワクチンのリスクが大きく取り上げられることは、興味深いですね。

 2桁〜3桁のリスクの差があるにもかかわらず、ワクチンが怖いと思うのはなぜでしょうか。これは、「小さな危険を大きな危険と誤解するSlovicの11因子」にこのワクチンが引っかかるからでしょう(ブログ2016.8.12 http://blog.ac.eng.teu.ac.jp/blog/2016/08/post-f417.html)。人工的に作られたワクチンは実際よりも1000倍恐ろしく感じられるのでしょう。
 さらに、ワクチンを打てば必ず副反応のリスク、打たずに感染すれば重症化し易いというリスク、とどちらの場合でも「損」をする場合、人間心理として「一か八か」、つまりワクチンを打たずに、新型コロナにかからない可能性に賭ける方を選択肢として選ぶ、というカーネマンのプロスペクト理論も働きます(これはこれまでのブログでは扱っていませんが、安全工学の実際の講義(第4回)で述べています)。
 この理論は「人間は目の前の利益に対して、利益が手に入らないリスクの回避を優先する。一方、目の前の損失に対して、損失そのものを回避しようとする」というものです。「小さなリスクを回避できないワクチンよりも、大きな被害の可能性があるとしてもワクチンを打たずに、新型コロナに感染しない可能性に賭けてしまう」ということでしょうか。さらに、定量的にではなく「定性的」に考えると、ワクチンを打たない選択になってしまうということでしょう。

 皆がワクチンを接種し、集団免疫ができれば感染拡大は防げます。つまり、そのような集団的なリスク回避の効果もあります。今回の新型コロナワクチンが臨時接種として行なわれ、うける側は無料であり、自治体は接種を推進する義務を負うのは、そのような集団免疫の形成を目指しているからでしょう。

 最初に申しましたように、ワクチンは個人個人で異なる免疫系への介入で、その副反応は個人で異なります。実際、ワクチンの大きなリスクを避けるために予防接種の前に、医師による問診があります。
 まだ順番が回ってくるまでには時間があります。安全工学を学んだ皆さんには、最後は自分で勉強して、それぞれの選択のリスクを自分で考えて、自分の判断と決断で接種をうけてもらいたいと思います。

新型コロナから逃げ延びましょう。皆様、ご自愛ください。

Photo_20210507110101

片桐 利真

2021.05.07

植物からPETボトルを作る技術(江頭教授)

|

 先日の記事ではサントリーの環境への取り組み、「ペットボトルの100%サステナブル化」のお話しを紹介しました。まずペットボトルのリサイクルが一つ、もう一つは植物由来素材のみを使用してペットボトルをつくる、という取り組み。この二つを合わせて「100%サステイナブル化」と呼ぶのだそうです。

 リサイクルと並んで「植物由来素材」がキーワードとなっているのですが、これはどういう内容なのでしょうか。まず、石油由来ではなく、再生可能な資源だ、というのはわかりますね。では具体的にはどんな植物から何をつくるのつもりなのでしょうか。

 ペットボトルの「ペット」はポリエチレンテレフタレート( polyethylene terephthalate )のこと。なんか「ポリエチレン」とついているので「ポリエチレンをテレフタル化したもの」みたいに感じますが、本当はエチレングリコールとテレフタル酸がエステル結合してできるポリマーなので「ポリーエチレンテレフタレート」と「ポリ」で区切るほうが感じがでます。

 余談はともかく、「ペット」の原料であるエチレングリコールやテレフタル酸を分泌する植物があるのでしょうか?エチレングリコールが含まれている樹液(甘そう)が採れる木とか、テレフタル酸をたっぷり含んだ果実(これは酸っぱいに違いない)が実る木とか。世界は広いのでそいういう植物もあるかもしれませんが、どうやらここで考えられているプロセスは別のものの様です。

 サントリーグループ「プラスチック基本方針」を説明するWEBページでは「2030年までにグローバルで使用する全ペットボトルの100%サステナブル化を目指します」として題してこの「ペットボトルの100%サステナブル化」が説明されています。その中で「米国バイオ化学ベンチャー企業・アネロテック社」と共同研究をして「ペットボトルを含むその他一般のプラスチックを、直接モノマーを含む基礎化学品(ベンゼン・トルエン・キシレン・エチレン・プロピレンなど)に戻すケミカルリサイクルの技術」の可能性を見出した、としています。


Photo_20210503194201

続きを読む "植物からPETボトルを作る技術(江頭教授)"続きを読む

2021.05.06

今日から授業再開です(江頭教授)

|

 授業再開とは、ちとオーバーな。連休がおわって授業がまた始まるというだけでしょう。

 はい、それはそうなのですが2021年5月の連休明けには少し違った意味合いがあるのです。皆さんご存じの通り、現在東京都には緊急事態宣言が出されています。本日、5月6日から本学はこの緊急事態宣言に対応した授業形態に移行するのです。

 本学は2021年の新年度から、本格的な対面授業を再開しました。ですがこの事態の急変を受けて方向転換することとなりました。実験、演習など対面でしか実施できない一部の授業を除いて大幅にオンライン授業への切換を行います。その初日が今日、連休明けの木曜日というわけです。これから1週間、学生の皆さんも我々教員も巧くオンライン対応ができるか、神経を使う一週間になりそうです。

52_2_20210504222701

続きを読む "今日から授業再開です(江頭教授)"続きを読む

2021.05.05

スマホか携帯か?(江頭教授)

|

 先日の記事(「続・パソコンかスマホか?」)で総務省の令和2年版「情報通信白書」から情報通信機器の世帯保有率の推移のデータを紹介したのですが、同じ「情報通信白書」に面白いデータを見つけたので紹介しましょう。今回のタイトルのとおり、スマホと携帯、どちらを使っているのか、という調査です。

 「ガラケー」つまり「ガラパゴス携帯」と揶揄されるほどに従来の携帯電話は時代遅れなものと認識されていると思います。だとすれば携帯の利用者は凄く少ない様に思うのですが、これが意外や意外、2019年度のデータでも24.1%、およそ4人に一人が携帯電話を使っているというのです。

Photo_20210505080701

続きを読む "スマホか携帯か?(江頭教授)"続きを読む

2021.05.04

江頭2:50さん休業と聞いて(江頭教授)

|

 この学科ブログに私的なことを書くのは気が引けますが、これには一言コメントしておきたくなりました。まあゴールデンウィーク中の一回ということでお許しを。

 タレントの江頭2:50さんが活動休止を発表したとか。体調を崩したそうで「体にガタがきた」とのコメントが。で、報道の中で驚いたのが江頭2:50(55)という記述。彼は55歳だったんですね。55歳であのルックス、あのバイタリティ、いやー若かいなあ。私が今58歳なので3歳ぐらい若いのだけなのです。3年前の自分にあれは無理だなあ。

 なんで江頭2:50さんがそんなに気になるかって?お気づきの方もいるかもしれませんが、この記事を書いている私は「東京工科大学 工学部 応用化学科 教授 江頭 靖幸」なんです。私も「江頭」姓なんですよね。

 「江頭」というのはそれほど多い姓ではないと思います。でも親族でも知り合いでもない「江頭」という名前を時々見ることがあります。私自身は子供のころ強烈な「江頭」体験があるのです。

Photo_20210504082901

続きを読む "江頭2:50さん休業と聞いて(江頭教授)"続きを読む

2021.05.03

サントリーグループの目指す「ペットボトルの100%サステナブル化」のこと(江頭教授)

|

 少し前の話になりますが本学のバーチャルオープンキャンパス用に作製された、東京工科大学のSDGsに対する取り組みに関する動画「SDGs×東京工科大学 ~2030年への挑戦~」でのトークに参加しました。その際、司会進行(ファシリテーター)を担当してくれた竹下隆一郎氏(ハフポスト日本版の編集長)から振られたのが、このサントリーグループが発表した「ペットボトルの100%サステナブル化」の話題でした。

 この計画、具体的な内容は

リサイクル素材あるいは植物由来素材のみを使用し、化石由来原料の新規使用をゼロにすることで、100%サステナブル化を目指します。

とされています。「化石由来原料の新規使用」をゼロにすることが100%サステイナブル化だ、としている訳ですね。この言い回しには、例えば

1)素材以外の化石資源の利用(例えば火力発電の電気を利用した加工など)はあり

2)石油から作られたPETボトルをリサイクルするのはあり

という前提があるのでしょう。もちろん、1)や2)が特に問題だということはありません。

Photo_20210503075701

続きを読む "サントリーグループの目指す「ペットボトルの100%サステナブル化」のこと(江頭教授)"続きを読む

« 2021年4月 | トップページ | 2021年6月 »