サントリーグループの目指す「ペットボトルの100%サステナブル化」のこと(江頭教授)
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少し前の話になりますが本学のバーチャルオープンキャンパス用に作製された、東京工科大学のSDGsに対する取り組みに関する動画「SDGs×東京工科大学 ~2030年への挑戦~」でのトークに参加しました。その際、司会進行(ファシリテーター)を担当してくれた竹下隆一郎氏(ハフポスト日本版の編集長)から振られたのが、このサントリーグループが発表した「ペットボトルの100%サステナブル化」の話題でした。
この計画、具体的な内容は
リサイクル素材あるいは植物由来素材のみを使用し、化石由来原料の新規使用をゼロにすることで、100%サステナブル化を目指します。
とされています。「化石由来原料の新規使用」をゼロにすることが100%サステイナブル化だ、としている訳ですね。この言い回しには、例えば
1)素材以外の化石資源の利用(例えば火力発電の電気を利用した加工など)はあり
2)石油から作られたPETボトルをリサイクルするのはあり
という前提があるのでしょう。もちろん、1)や2)が特に問題だということはありません。
例えば1)の化石燃料由来の電力の問題ですが、発電はおそらくサントリーグループの主たる事業ではないと思われます(一部自家発電等はあるでしょうが)。電力の「サステイナブル化」は電力会社に任せて、サントリーグループは自社のメインの事業の「サステイナブル化」に注力すべきだ、というのは当然でしょう。
2)については2030年の時点で再生用に回収されたペットボトルには多くの化石由来の原料で作られたPETボトルが含まれていても、そのうち植物由来の原料で作られたPETボトルが市場に出回るようになる。それに従って回収ペットボトルにも植物由来のものが増えてゆく。やがて全てのペットボトルが植物原料からつくられることになると期待できるでしょう。
だた、一つだけ盲点があるとすればサントリーグループ以外のペットボトル製造者が化石由来の原料でPETボトルを作り続けた場合にどうなるか、です。「リサイクル素材あるいは植物由来素材のみを使用し、化石由来原料の新規使用をゼロ」という規則を(例えば)日本の飲料会社全部で守るのであれば、再生できずに廃棄されるPETボトルの量と同じだけのPETボトルを新規に植物原料から作らなければ「100%のサステイナブル化」は実現できません。しかし他の企業が石油からPETボトルを作るのなら、極端な話、植物由来の素材で作られたPETボトルが全く無くても上記の規則を満足することができてしまいます。他社が石油から作ったPETボトルのリサイクル品だけをPETボトルの原料にすれば良いのですから。
私企業が「100%サステイナブル化」という目標を目指していろいろな試みをすることはとても大切なことだと思います。その一方で、社会を本当に変革するためには社会全体での取り組み、たとえば政府による期制が必要だろう、と私は考えています。
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