エネルギー白書もビックリ!「マイナスの原油価格」から1年(江頭教授)
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皆さんはエネルギー白書(正確には「令和元年度エネルギーに関する年次報告」といいます)をご存じでしょうか。経済産業省の資源エネルギー庁が毎年まとめている白書で、日本や世界のエネルギー関係の動向や日本政府の政策について最新の情報に触れることができてとても便利。私も授業のなかでたびたび引用させてもらっています。
さて、今(2021年5月)時点で最新のエネルギー白書は令和元年度版の「エネルギー白書2020」です。なんか和暦と西暦がずれているような気もするのですが…。これは令和元年度に実施した政策を2020年に振り返る、ということの様です。今回はこの最新版のエネルギー白書2020で面白い記述を見つけた、というお話です。対象は「【第222-1-11】国際原油価格の推移」という図とその解説の部分。まずは、これがどんな図なのか説明しましょう。
エネルギー白書は例年、第一部が特集、第二部が資料編、第三部が政策各論、といった構成になっています(いや、そいういう名前ではないのですが。)今回の図は第二部の資料編(正しいタイトルは「エネルギー動向」)の一部。「第2章 国際エネルギー動向」の「第2節 一次エネルギーの動向」「1.化石エネルギーの動向」「(1) 石油」「⑤原油価格の動向」にある図で、要するに日本が輸入する石油の価格についてまとめた図です。
さて、この図についている説明文はこんな感じ
原油価格は、これまでも大きな変動を繰り返してきました。2000年代半ば以降(中略、筆者による)2011年から2014年までの年間平均価格は、ブレント原油で1バレル99ドルから112ドル、WTI原油で93ドルから98ドルの範囲で推移しました(第222-1-11)。
古いほうから図を読み下して、それぞれの年代のイベントを説明する構成になっています。図をまたいでさらに説明が
2014年の夏以降は、(中略、筆者による) さらに、2020年1月頃から世界に拡大した新型コロナウイルスによる移動制限や経済活動の停滞に伴い、世界の原油需要は大きく落ち込み、2020年3月には、原油価格は約18年振りの安値水準まで下落しています。その後、4月前半にはOPECプラスの再協議が行われ、970万バレル/日という大規模の減産合意が行われました。しかし、新型コロナウイルスによる原油の需要減少の影響は大きく、原油価格は再び2020年3月と同水準まで下落しています。
一応令和元年(2019年)の振り返りの白書なのですが、やっぱり新型コロナウイルスの影響の大きさには触れずにいられなかったのですね。
などと思って図と文章を見比べてみると少し変。文章の方では「原油価格は再び2020年3月と同水準まで下落」となっていて1バレル20~30ドル程度の価格になったという説明なのです。ところが図の方はさらなる下落を示していて、ついに0になって、そこを通り過ぎてなんとマイナスにまでなっているのです。
そういえば昨年「マイナスの原油価格」が話題になっていましたっけ。資源エネルギー庁のエネルギー白書担当の人たちは、データを載せるところまでで時間切れになったのでしょうか。あまりに非常識な事態で、どんな説明をすればよいか考える時間がなかったのかもしれませんね。
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