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私企業が社会の基盤技術の開発に取り組む意義(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 先日の記事で飲料メーカーのサントリーがペットボトルの「100%サステイナブル化」を目標として「バイオマスや廃プラスチックなど、炭素を含む原料を触媒を使って熱分解し、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの混合物)や炭化水素、COを含むガス(合成ガス)を作り出すプロセス」の研究・開発に参画しているという話を紹介しました。BTXを使ってペットボトルの素材であるPET樹脂をつくるのです。もっともサントリーが工場をつくっている訳ではないらしく主体は「米国バイオ化学ベンチャー企業・アネロテック社」のようです。

 さて、この研究はプラスチック類の製造に必要とされる石油に変わって短期的には廃プラスチックを、長期的にはバイオマスを利用することで石油に依存しないプラスチック生産を目指す、という技術です。サステイナブルな社会を構築するためには非常に重要な技術なのですから、これを一企業(今回はグループですが)に任せておいて良いのでしょうか。このような大切な技術開発が巧くいかなかったら大変ですし、逆にもし巧くいったときその技術が独占されるのも問題でしょう。ここは国家プロジェクトとして日の丸大連合で研究を強力に推し進め...という話にはなっていませんよね。

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 来たるべき「サステイナブル社会」でPETボトルがどのように作られ、利用され、そして廃棄されるのか。いえ、そもそも「飲料を持ち運ぶ」という効用がどのように実現されているのか。そこでPETボトルが使われているかを含めて、「サステイナブル社会」の在りようについて、現時点では明確なコンセンサスはありません。PETに代わるバイオマス由来の新しいプラスチックが用いられているか、あるはガラス容器が見直されるのか。量り売りが復活して「飲料を持ち運ぶ」使い捨ての容器が無くなってしまうかもしれません。どの選択肢にもメリット・デメリットを思いつくことができますが、実際にどの選択肢が実現するのかは不明です。

 このような状況下で国が主導して技術開発をすることは難しい。難しいのは私企業でも同じです。でも、公的な資金で国が手がける事業は「最小限の経費で」「必ず成功させる」ことが必要になるのです。要するに国の事業には「賭け」が許されない。一方で私企業の運営では「賭け」は推奨される行動で「賭け」に勝つことによって企業は利益を得る、という側面があるわけですね。

 さて、サントリーをはじめいくつもの企業が自らの環境への取り組みをPRしています。これは企業全体でみればPRを通じて企業への、ひいては自社製品への好感度をあげて売り上げにつなげる、という意図で行っているわけです。その一方で新しい技術の開発、社会にとって望ましい技術の開発、という観点でみると、人々のPRへのリアクションが巡り巡って社会にとって望ましい技術開発のための資金援助となっているとみなすこともでできるのですね。

江頭 靖幸

 

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