「マイナスの価格」なんてあり得るのか?(江頭教授)
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先日の記事で「マイナスの原油価格」について紹介しました。昨年の4月、新型コロナウイルスの感染拡大が欧米で本格的に問題となり始めたころの話。その影響を受けた国際原油価格はどんどん下落。ついには0ドル/バレルに到達した、ばかりか、ついにはマイナスになってしまったというのです。
単純素朴にそんな話ってあるのでしょうか?モノを買うのにお金が少ししか要らない、というのは分かります。モノを買うのにお金が全く要らない、というのもギリギリありとしましょう。でもモノを買うとお金がもらえるって、そんなバカな。
マイナスの価格のモノがあったら誰もがそれを購入してお金を手に入れようとするでしょう。どんどん売れてあっという間に市場からなくなってしまうはず
なのですが、あの時の原油というものはお金をもらっても手元に置いておきたくないモノだった、ということなのでしょう。つまり利用価値はないのに手放すためにお金が必要なモノ。敢えて言ってしまえば処理に費用のかかる廃棄物のように見えたのですね。
あるモノの価値が全く無くて、処理に費用が必要だ、としましょう。処理に必要な費用以上にお金をもらえる(マイナスの価格になる)様になってやっと「あっという間に市場からなくなって」しまう状態になる。つまり最小価格ちゃんと存在していて、「処理に必要な費用」にマイナスをつけた価格ということになります。普通は処理に必要な費用を0だと考えているので「マイナスの価格」が奇異に見えるわけですね。
今回の、というか昨年のケースではごく短い時間に原油の価値がほとんど0とみなされる様になりました。原油をもし処理するならそれなりの費用がかかりますからマイナスの価格が見られたわけです。短い時間で世の中の多数の人の意見が激変することがポイントですが、この「短い時間」にはどのくらいまで含まれるのでしょうか。
気候変動の問題を考えれば石油に代表される化石資源の利用はいつかは制限され、あるいは禁止されることになるでしょう。だとしたら原油の価値は本当に0になってしまう。処理費用を入れれば「マイナスの価格」になるのはずなのですが...。
現実には原油の「マイナスの価格」は昨年4月の一瞬の出来事であり、石油価格はすぐにプラス圏に回復し、その後も増加傾向です。つまり、多くの人は化石資源の利用は当面つづく、と考えているわけですね。
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