植物からPETボトルを作る技術(江頭教授)
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先日の記事ではサントリーの環境への取り組み、「ペットボトルの100%サステナブル化」のお話しを紹介しました。まずペットボトルのリサイクルが一つ、もう一つは植物由来素材のみを使用してペットボトルをつくる、という取り組み。この二つを合わせて「100%サステイナブル化」と呼ぶのだそうです。
リサイクルと並んで「植物由来素材」がキーワードとなっているのですが、これはどういう内容なのでしょうか。まず、石油由来ではなく、再生可能な資源だ、というのはわかりますね。では具体的にはどんな植物から何をつくるのつもりなのでしょうか。
ペットボトルの「ペット」はポリエチレンテレフタレート( polyethylene terephthalate )のこと。なんか「ポリエチレン」とついているので「ポリエチレンをテレフタル化したもの」みたいに感じますが、本当はエチレングリコールとテレフタル酸がエステル結合してできるポリマーなので「ポリーエチレンテレフタレート」と「ポリ」で区切るほうが感じがでます。
余談はともかく、「ペット」の原料であるエチレングリコールやテレフタル酸を分泌する植物があるのでしょうか?エチレングリコールが含まれている樹液(甘そう)が採れる木とか、テレフタル酸をたっぷり含んだ果実(これは酸っぱいに違いない)が実る木とか。世界は広いのでそいういう植物もあるかもしれませんが、どうやらここで考えられているプロセスは別のものの様です。
サントリーグループ「プラスチック基本方針」を説明するWEBページでは「2030年までにグローバルで使用する全ペットボトルの100%サステナブル化を目指します」として題してこの「ペットボトルの100%サステナブル化」が説明されています。その中で「米国バイオ化学ベンチャー企業・アネロテック社」と共同研究をして「ペットボトルを含むその他一般のプラスチックを、直接モノマーを含む基礎化学品(ベンゼン・トルエン・キシレン・エチレン・プロピレンなど)に戻すケミカルリサイクルの技術」の可能性を見出した、としています。
「米国バイオ化学ベンチャー企業・アネロテック社」をネットで少し調べるとanellotech.comにたどり着きました。そのなかの TECHNOLOGY のコーナーで Bio-TCat (上図)が紹介されていました。おそらくこれが植物からPETの原料を製造するプロセスなのでしょう。
説明によればバイオマスや廃プラスチックなど、炭素を含む原料を触媒を使って熱分解し、BTX(ベンゼン、トルエン、キシレンなどの混合物)や炭化水素、COを含むガス(合成ガス)を作り出すプロセスだとのこと。
原料に特別な植物を必要としないどころか植物由来の原料である必要すらない、というのは大きなメリットですね。しかしこのプロセスで作られる物質は様々なので、そのすべてがPETの素材となる物質に変換できるとは限らないでしょう。
ということは他の化学物質のニーズとうまく調整して効率を高める必要がある。こう考えるとこの植物由来の化学原料製造業も今の石油産業とよく似ている部分があるのですね。
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