「NHKスペシャル 2030 未来への分岐点 (2)飽食の悪夢~水・食糧クライシス~」(江頭教授)
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今回は「NHKスペシャル 2030 未来への分岐点」の第2回「飽食の悪夢~水・食糧クライシス~」の感想です。
そもそもこの番組はNHKで今年(2021年)の2月7日に放送されたものだそうです。私が見たのは5月8日の再放送されたものが、たまたま録画されていたからでした。途中ニュースを挟んで前後編各50分という長尺で、かなりの情報量。その分整理が追いついていないのかいろいろな話が雑に並べられている様にも見えてしまいます。大まかに前半が現在の世界の食料生産システムの問題。後半はその解決策を模索する、という流れになっています。
前半では「世界の農業システムは全人類に充分行き渡るだけの食料を生産していること」を述べていて、それにもかかわらず「食料が手に入らずに困っている人が大勢いる」のだ、という問題を指摘しています。そして後半では「先進国(日本を含む)の人々の飽食、要するに食べ過ぎがその原因だ」としているのです。
あのー、これっておかしくないですか?
前半では今現在、充分な食料が作られてているのに飢えに苦しんでいる人がいる、としています。つまり食物の生産システム(=農業システム)の能力不足の問題ではない、絶対量の不足が問題なのではない、と言っているわけです。だとしたら現在の飢餓の問題は食糧供給システムの問題、もっと言えば富の分配の問題だということになるのでは。
つまり、現在の世界で飢えている人々は早く「世界の農業システム」に接続してあげるのが問題の解決なのであって、「世界の農業システム」の改革云々はまた別の問題だと思うのです。ましてや農業国の人々がやっと販路を開拓した先進国でダイエットキャンペーンをすることで貧しい国の飢えた人々が救われるのでしょうか?
最初に量ではなくて分配が問題だ、と指摘しておきながら、後半の解決策は節約、という量の問題にもどってしまっています。確かに、番組内では若者達のフードバンクへの取り組みも紹介していました。これはこれで良い取り組みだとは思いますが、番組前半から強調されていた世界規模の「水・食糧クライシス」とバランスがとれていないのでは。
もっと言うと、この番組の中では「以前から、そして今も飢えに苦しんでいる人々」「(コロナ危機で)突然、飢えに苦しむようになった人々」「2030年に飢えに苦しむであろう日本人」など場所も時間も背景も全く違った「飢え」の問題が雑多に並べられている様に見えます。「飢え」という問題にはいろいろな側面があって、その原因も解決法もそれぞれでしょう。10年後の2030年に向けて警鐘をならす、という意図は分かるのですが複雑な問題を断片的に並べる、という構成は問題解決への取り組みのために必要な態度とは幾分距離があるように私には思えるのですが...。
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