温暖化対策と経済成長(江頭教授)
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子供のころ、たぶん小学生のころでしょうか、祖父の家に遊びに行ったときに「くたばれGNP」というタイトルの本が置いてあったことをなぜか鮮明に覚えています。GNP(国民総生産)とは要するに国の豊かさの指標です。GNPは大きければ大きいほど豊かなのだから、GNPをどんどん大きくしよう、と考えるのが普通なのですが、これに「くたばれ」と罵声を浴びせるというのは一体どういうことか。これは当時の時代的な背景有ってのことですね。
この「くたばれGNP」の発刊は1971年だそうです。高度経済成長の真っただ中であり、それゆえに経済成長の問題点も見えてきた時代。特に公害問題への関心が経済成長への疑問に、そして「脱」成長論に類する問題意識へと発展してゆく始まりの時代だと言えるでしょう。その流れは現在の環境保護の観点からの温室効果ガス削減や省エネルギーにもつながっていると思います。
では温室効果ガス削減の基礎となる温室効果ガスの排出量をどうやって見積もるのか。これに技術的な問題が多数あることは容易に想像できますが、なにが温室効果ガスなのか、それぞれのガス種がどの程度の温室効果を持つのか、これについては国際的な合意がとれた科学的な根拠のある数値がベースになっています。一次エネルギーの供給量も同じ。何がエネルギー源として用いられていて、それぞれのエネルギー源をどのように一次エネルギーとしてカウントするか、には客観的な基準が定められています。
GNPも「金額を集計する」という意味では客観的手順によって算出される数値ではあります。しかし、どのようなものが商品価値をもつのか、それぞれのがいくらで売られるべきなのか、これに関しては科学的な根拠はありません。もちろん消費者や供給者が勝手に決めることはできないので個人の主観で決まるものではありませんが、自然によって決まっているわけではない、という意味では客観的なものではありません。集団としての人間が決めているもの、つまり社会主観によって決まっているものなのです。
環境の限界に対して人間の活動が無限に成長することはできない、これが「脱成長」の必要性だと考えれば「くたばる」べきなのは客観的な数値である温室効果ガスの発生量です。そしてGNPは人間の主観なので勝手に増やし続けても構わないことになります。経済成長を続けながら温室効果ガスの削減を目指すことは可能なのですね。
なお、現在ではGNPという数値指標は用いられなくなってGDP(国内総生産)に置き換えられています。そういう意味でなら本当にGNPは「くたばって」しまったんだなあ。
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