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蟻の巣は雨水で水没するのか?(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 まず最初にお断りをしておきましょう。この記事では「蟻の巣は雨水で水没するのか」とうい疑問に白黒つける研究報告等を紹介しているわけではありませんので、その点に興味がある方には申し訳ありません。今回のテーマは私達のものの考え方が自分達人間のサイズにとらわれているのでは、というお話しです。

 話の始まりはラジオから。梅雨入りの話題で「蟻が騒いでいるのは雨の前兆」というようなお話しから「蟻さんも雨が降ってきたら巣が水浸しになって大変ですね」などと。これを聞いて私は「はて、蟻の巣に水なんて入るのだろうか」と疑問に思ったのです。いや、確かに少しの水は入るとは思います。でも巣が水浸しになるなるほどの水が入るのでしょうか。

 雨が降って蟻の巣に水が流れていく様子を想像してみましょう。雨水はきれいな水でしょうが、巣穴に流れてくるまでに既に泥水になっているのでは。また巣穴に入った水は壁面にしみ込みますから、やわらかくなった土の壁はやがて崩れてしまう。そう考えると、巣穴が水浸しになる前に入口が詰まってしまうのではないかと思います。

 人間サイズで、それも壁面がきれいに処理された道路や鉄道のトンネルの様なものを念頭に、そこに大量の水がやってくる様子を想像すると「巣が水浸しになる」という心配も当然のことの様に思えます。でも蟻の巣の壁面はコンクリートで塗り固められているわけではありません。そもそもサイズが小さいので穴に入りうる水の量に比べて壁面の面積の比率がすごく大きい。壁面が崩れて水に泥が混じるとすぐに流れが止まる程度に「どろどろ」になる。

 人間サイズの穴を想像すると穴が一旦塞がっても泥の自重だけで崩れてしまうでしょうがサイズの小さな蟻の巣の穴だと、どろの自重に比べて支えになる壁面の面積の比率も大きいため、塞がったらそのままではないでしょうか。Photo_20210606073801

 上の写真は「放射能X」という1954年製作の映画のジャケットです。「放射能の影響で巨大化した蟻と人間の戦い」を描いたSF映画、というか怪獣映画です。この中で「蟻は自分の体重より何倍も重いものを持ち上げることができる」という事実を指摘して、これが巨大化したものだから非常に強力だ、と説明していました。

 この映画を最初に見た子供の頃の私はこの説明に大いに納得したものです。でも今の私は「蟻は自分の体重より何倍も思いものを持ち上げることができる」のは「蟻だから」ではなく「小さいから」だということを知っています。蟻が巨大化したら力持ちになるどころか歩く、いや立ち上がることさえできなくなるでしょう。

 「蟻の巣が水浸しになる」という心配はこの怪獣映画の様なサイズの違いによる誤解の一つでしょう。足下の蟻の気持ちにも心を寄せるような自然観は好ましいものだと私は思います。(ついでに巨大化した蟻にも大暴れして欲しい。)とはいえ、私達の発想が私達の体のサイズという根源的な制約をもっている、ということを少しだけでも意識しておくのは必要なことでしょう。

江頭 靖幸

 

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