5気圧ってどのくらい?(江頭教授)
| 固定リンク 投稿者: tut_staff
本学の1年生向けの授業「フレッシャーズゼミ」は少人数制の授業。10名程度の学生さんが先生と一緒にグループワークを中心とした課題に取り組むものです。この授業のなかで応用化学科では簡単な実験をしてみましょう、という話が進んでいます。私が担当する学生諸君も2グループに分かれてそれぞれにテーマを探しています。最近は便利になったものでネット、とくに youtube などで「面白い実験」の具体例をいろいろ見ることができる。その中から一つの班が選んできたのが「野菜×爆発」です。
「岡本太郎か!(いや、学生諸君には分かりますまい。)」とか思ったのですが聞けば「すりおろした野菜とオキシドール(オキシフル?)をフィルムケースに入れておくと勢いよく蓋が飛ぶ」という話らしい。オキシドールに含まれる過酸化水素が野菜に含まれるカタラーゼの触媒作用で分解されて酸素ガスが発生。フィルムケースの中に溜まると内圧が上がることで蓋が飛ぶ、という仕組みらしい。
「いや、フィルムケースって。写真のフィルムなんて今の学生諸君には分かりますまい。」などと言ったら実はフィルムは無くてもフィルムケースだけがネット通販で売っているのですね。その体積、約30mLだとか。サイズも以下の図の様に示されています。
さてここで問題です。10mLのオキシドールを入れたとして、その中の全ての過酸化水素が分解し酸素ガスを発生させたときにフィルムケースの中はどの程度の圧力になるのでしょうか。
オキシドールについて調べると「過酸化水素(H2O2)を2.5~3.5 w/v%を含有します。」との記述が。アバウトだなー。中をとって3w/v%とすると10mLのオキシドールには0.3gのH2O2 が入っていることになります。分子量 34で割って8.8×10-3mol。2分子のH2O2 から1分子のO2 が生じるので4.4×10-3molの酸素ガスが発生します。0℃1気圧なら22.4Lを掛けて98.56mL。約100mLのガスが発生することが分かります。
件のフィルムケースの容量30mLに100mLのガスが無理矢理に詰め込まれたとすると内圧は約3.3気圧(大気圧との差です。絶対圧なら4.3気圧)になる。いえいえ、すでに10mLのオキシドールを入れてしまったので容器の内容量は20mLに減っているはずです。そう考えると少なくとも100mL/20mLで大気圧の5倍。5気圧になるはずです。
では5気圧とはどのくらいの力なのでしょうか。約0.5MPa。これでもイメージがわきません。
件のフィルムケースの蓋の面積、直径2.7cmの円形として5.72×10-4 m2です。ここに0.5MPaの圧力がかかるとしたら2.86×102 Nの力がかかっていることになる。これは重力加速度を9.8 ms-2とすれば29.2 kgw。つまり小さなフィルムケースに約30 kg の力がかかる計算になるのです。
イメージがはっきりしてきました。フィルムケースの蓋がどれくらいしっかりしているかは分かりませんが、さすがに30 kg の力がかかればはじけてしまうでしょうね。(というか、30 kg でもびくともしない蓋なんて普通の人間には開けることができないですよね。)
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