2010年~2019年の地球の炭素収支(江頭教授)
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先に紹介した2020年の地球の炭素収支、これはコロナウイルス感染症のパンデミックの影響に関連して取り上げました。今回はパンデミック以前の地球の炭素収支について紹介しましょう。前回引用した論文「Global Carbon Budget 2020」にはパンデミック以前の最近10年間の炭素収支についても述べられています。(というか、この論文の本来の目的はどちらかというとこちらの方でしょう。)
前回
さて、人間活動によって大気中の放出されるCO2(とCH4)のうち最大のものはもちろん化石燃料に由来のものです。これと「土地利用変更」つまり森林破壊等に由来する発生が主な項目となります。そして放出されたCO2の一部は海に、別の一部は陸地の植生に吸収され、残った部分が大気中に蓄積することになります。温暖化に直接関係するのは大気中の温室効果ガスの濃度です。
と説明しましたが、本論文では2010年から2019年の10年間の平均でこのそれぞれの項目がどの程度の量だったのかが推定されています。
まず化石燃料由来のCO2。これは 9.4 ± 0.5 GtC /y と見積もられています。これは炭素基準の数値なので二酸化炭素を基準とすれば約35 GtCO2/yとなります。ただこの排出量は年平均1.2%で増加を続けいるというので最近の値(といってもコロナウイルス感染症パンデミック以前ですが)としては過小評価でしょう。
これに土地利用の変化に由来するCO2の排出量 1.6 GtC/y が追加されます。排出量全体を100%として化石燃料由来が86%とほとんどを占めていることがわかります。
さて排出されたCO2の一部は海に溶け込みます。その量は 2.5 GtC/y。別の一部は陸地の植生に吸収されるのですが、こちらは 3.4 GtC/y と見積もられています。合わせて 5.9 GtC/y となって発生量の半分以上が吸収されることがわかります。大気中に放出されたCO2の 11.0 GtC/y がそのまま大気に溜まるわけではなくおよそ半分の 5.1 GtC/y が大気に蓄積すると見積もられているのですね。
では実際に観測された二酸化炭素の増加速度はどうだったのか。これは 5.1 GtC/y と見積もられていて、炭素の収支から計算した値と一致しています。お金の収支になぞらえると収入(11.0 GtC/y)から支出(5.9 GtC/y)を引いた金額(5.1 GtC/y)がちょうど財布に残っていた金額(5.1 GtC/y)といったところでしょうか。きちんと収支が合っているのですから2010年から2019年の10年間については発生源にも吸収源にも大きな見落としがないということがわかります。
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