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自分が息を止めても溺れた人は助からないですよね(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 見ましたか、「ポセイドン・アドベンチャー」。豪華客船が転覆して沈み行く船体のなかに閉じ込められた人たち。怖いですねー。恐ろしいですねー。特にあの、脱出のために水の中をくぐり抜けてゆくシーン。見ているこっちの方まで息が詰まってしまいますねー。

って、何の話かって?海洋パニック映画の傑作、「ポセイドン・アドベンチャー」の1シーンです。実はこのシーン「NHKスペシャル 2030 未来への分岐点」の第2回「飽食の悪夢~水・食糧クライシス~」(内容についてはこちらで説明しています)を見て思い出しました。この手の番組をみるとどうしてもこの「ポセイドン・アドベンチャー」の「主人公達が浸水した通路を潜水具なしで通り抜けるシーン」を思い出してしまうのです。まさに息が詰まるように緊張するシーンで、映画の登場人物達が水をくぐり抜けたところで見ているこっちも思わずふーっ、と息をつくことになります。

 映画を見ている我々は映画の登場人物とちがって息が苦しいわけではない。なんならカウチポテトでジュースもポテチも飲み放題に食べ放題で、なんのつらさもありません。息を吸うのに困る事なんて全く無いのですが、でも映画の巧みな演出のおかげで自分も息ができない様な感覚を覚えるのですね。

 さて、ここで問題です。映画を見ている私が息を殺して空気を吸うのを我慢したら映画の登場人物の息が楽になったりするのでしょうか?絶対にそんな事はありません。そも映画はフィクションですからね。

 

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 では、現実の海難事故が起こって、それがテレビで中継されていたとしたらどうでしょうか?これも同じです。テレビを見ている私達は(普通の状態なら)充分な空気の吸える場所に居る。しかし海難事故に遭っているテレビの向こう側の人たちはそうではない。彼らが空気を吸えないのは、地球の空気をテレビの視聴者が吸い取ってしまったからではなくて、単純に海水に取り囲まれているからです。我々が息を殺して空気を吸わないようしても何の役にも立ちません。私達にできるのはせいぜい救助が巧くいくように祈ることぐらいでしょう。

 一体何の話をしているかって?さきの「NHKスペシャル 2030 未来への分岐点」の第2回「飽食の悪夢~水・食糧クライシス~」に戻るのですが、世界の各地で起こっている飢餓や水不足の話題がこの番組では多く取り上げられていました。では、私達がダイエットしたり水を節約すると今起こっている飢餓や水不足が解決するのでしょうか。

 一部は解決するのかもしれません。たとえば、私達がワインの不買運動をしてワイン産業を崩壊させれば件の番組で紹介されていた「輸出用ワイン製造のためのブドウ畑」も潰れて他の農業をしている人たちに水を分け与えることができるでしょう。でもそれがこのコミュニティーにとって最良の解決と言えるのでしょうか。この問題は全地球の課題と捉えるよりも、ワインの輸出も近隣での消費を当て込んだ農業もどちらも選択できる状態で、そのコミュニティーにおける水争いの問題として対応した方が解決し易いのではないかと思います。

江頭 靖幸

 

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