1850年からの地球の炭素収支(江頭教授)
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以前紹介した地球の炭素収支のお話、前回に続いて今回も紹介してゆきたいと思います。前回は2010年から2019年の10年間に人間が放出した二酸化炭素の由来とその二酸化炭素がどうなったか、という話でしたが、今回はもっと時間をさかのぼって人間の工業文明が発展を始めたときから、具体的には1850年から今、というかコロナ禍直前の2019年までについてのお話です。
まずはデータを見てみましょう。下の図の左側が1850年から2019年までのデータ。右側は直近の10年、つまり2010年から2019年までのデータが示されています。まず左右の図で縦軸が違っていることを確認しましょう。左の図のスケールは最大700、右が12。左の500と右の10がほぼ同じ位置にありますから右の方が50倍の大きさになっています。実は縦軸の単位そのものが違っていて左はGtCで累積の炭素(というか二酸化炭素)放出量、右が GtC/y で毎年の放出量、つまり放出速度なのです。
1850年から2019年までの170年間の累積排出量が毎年の排出速度の50倍のスケールに収まっている。普通に考えれば170倍のスケールになるはずなのですが...。要するに最近10年の平均排出速度が過去に比べてかなり大きいということが図のスケールに反映しているのですね。
さて、今度は個々の数値を見てゆきましょう。まず二酸化炭素の放出について。化石燃料の燃焼と土地利用の変更を比べると化石燃料の燃焼が多い、という点ではこの10年と同様の傾向です。ただ170年の累積値でみると土地利用の変更の比率がかなり大きく、化石燃料の燃焼と土地利用の変更との比率は大体2対1といったところです。
放出された二酸化炭素のうち、一部は陸地の植生に吸収され他の一部は海に溶け込み、その残りが大気に残留して温暖化の原因となります。データを見るとこの170年で排出された二酸化炭素の内、約1/3が陸地の植生に、約1/4が海に吸収されました。残り約4割が大気中に残存しているのです。この比率は最近10年の平均でもあまり変化はありませんが、大気中に残存する二酸化炭素の割合はやや増えています。
最後に図では赤で示されている「Budget imbalance」にふれておきましょう。排出量と「吸収量+残存量」はつり合って同じ値になるはずなのですが、両者の不釣り合いがこの「Budget imbalance」です。170年の累積値では全体の3%程となっています。これは数値としては 20 GtC という大きな量なのですが、放出や吸収、残存のそれぞれの量にくらべればかなり小さいと言えるでしょう。各項目にも誤差が含まれることを考える「収支が合っている」、つまり見逃されている大きな項目はないと考えて良いと思います。
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