特撮映画とサイズの話(江頭教授)
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以前、このブログ記事で巨大蟻を描いた特撮映画「放射能X」について触れたとき「蟻が巨大化したら力持ちになるどころか歩く、いや立ち上がることさえできなくなるでしょう。」と書きました。生物が同じ形でサイズだけが大きくなるとその重さは倍率の三乗で増えるのに対して筋断面積は二乗でしか増えない。だから体重に比べて筋肉が少なくなってしまいます。このギャップを埋めるために大きな生物は手足を太くして筋肉の割合を増やす必要があります。蟻の足はあんなに細いのに像の足は太々としているのはそのためです。
だから巨大生物の足は太々としていなければ。その点、ゴジラは合理的(?)ですね。とはいえ、ゴジラ映画にも多々「やらかし」はあります。昭和、平成、ミレニアムゴジラと日本の作品もなかなかのものですがハリウッド版も如何なものか。今回はリブート版ハリウッドゴジラの第2作「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」について書いてみたいと思います。
この映画、私は公開当時劇場で見ています。そのときの私の感想は「カブトムシに睨まれた!」です。
この映画のはじめの方に主人公がゴジラを目撃するシーンがあります。ゴジラを監視するために作られた基地に来た主人公。その前に活動を再開したゴジラが現れる。迎撃システムを起動する基地の要員達。これに対して「砲台を引っ込めろ」という主人公。勝ち目はないから敵意がないことを示すのだと言います。「武装解除!」芹沢博士(渡辺謙)もこれに乗って基地は丸腰状態に。これでいいのか、と思っているとこの主人公、次には「シールドを開けろ」と言い出す始末。シールドを開いてゴジラと対面する主人公、その意志が通じたのか、やがてゴジラは基地の前から去って行きます。
いや、人間側から見たらそういう展開なのですが、これゴジラ側からはどう見えるのか考えているのでしょうか。今作でゴジラの身長は 119.8 m だそうです。人間の身長が 1.8 m だとするとその比率は約66倍。仮にゴジラが 1.8 m の人間サイズだとすると、そのゴジラから見た人間のサイズは 2.7 cm くらい。ゴジラからするとカゴに入ったカブトムシがこっちを向いている、くらいなのでは。これで「敵意がないこと」がわかるのでしょうか。そもそも敵意って。カブトムシに睨まれたからってどうってこと無いのでは。
サイズという一点から見てもこの映画の作り手が人間の視点を中心に考えすぎてきていることがわかると思います。その方が観客達が面白いと感じる、という読みなのかも知れませんが、残念ながら私はその観客達には含まれなかったようです。そもそも映画を見ながら比率を暗算していたというのが映画に乗れていなかった証拠ですね。
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