書評「マイケル・サンデルの白熱教室 エリートたちよ 君の成功は努力の結果?それとも運?」(その2)(江頭教授)
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前回に引き続き、の2021年7月24日に放送された「マイケル・サンデルの白熱教室 エリートたちよ 君の成功は努力の結果?それとも運?」という約2時間の番組についての紹介です。なお、今回私が見たのは再放送で本放送は2021年の7月4日から行われていたようです。
今回のタイトルは「マイケル・サンデルの白熱教室 エリートたちよ 君の成功は努力の結果?それとも運?」とありますので、アメリカ、日本、そして中国のエリート達がサンデル教授の議論の相手となっています。前半のコロナ禍についての話題から、後半ではいよいよこのタイトルの内容、「エリートの成功は努力の結果?それとも運?」なのか、という問いかけへと進んでゆきます。
少し驚きましたが、この問に「努力の結果」だ、と応える人は中国の若手エリートでは6人中4人、アメリカでは6人中2人なのに対して、日本では6人中0人、全くいなかったのです。まあ、日本人特有の謙遜なのかも知れませんが、それにしても極端な。サンデル教授がそれぞれの意見を聞いてゆくと、中国の若者達の猛勉強ぶりが際立ってきます。中国の若者達は猛勉強によってエリートの地位を手に入れた。そのことが彼らの意見、「エリートの成功は努力の結果だ」という結論につながっているのでしょう。
では日本の若手エリート達はどうなのでしょうか。私が大学を受験する頃には(正確にはその少し前には)、日本にもちょうど今の中国の若者達が語ったような「受験戦争」と言うべき現象がありました。でもそれも今では昔の話でしょう。
これでは日本は中国に勝てない?いえ、議論はその様に進んでは行きません。
サンデル教授は「努力か運か」という問から進んで、その「あなたはその地位に相応しいか」と問いかけます。この問は努力が成功の要因なら相応しい、運であるなら相応しくない、という回答に結びついているように見えます。しかし、ここで日本の若者が「努力か運か」に関わりなく、「その地位に相応しい」ように行動しなければならない、と述べたのです。
これは「ノブレス・オブリージュ」という考えそのものです。あるいは「大いなる力には大いなる責任が伴う」という表現でも良いでしょう。ここまでの問に対してこのように答えられることは、私には非常に素晴らしいことのように思えます。どのぐらいサンデル教授が誘導しているのかは分かりませんでしたが、日本の若きエリートに気高い責任感を見せてもらったことで、私は少し感動してしまいました。
さて、サンデル教授は最近「実力も運のうち 能力主義は正義か?」という著作を発表しているとか。今回の「白熱教室」で私は俄然興味を引かれたのでした。
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