オキシドールの酸素を作って呼吸するとしたら(江頭教授)
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昨日の記事では酸素の発生源としてのオキシドールについて考察しました。ボンベに比べて重量基準でも体積基準でもだいた1/15程度の保存量にしかならない、という結果で大した性能とはいえません。ただ圧力容器を用いなくても酸素が保存できるのですから安全性は高いのではないでしょうか。
さて、今回はオキシドールで発生させた酸素で呼吸することを考えてみましょう。これは人間がどのくらいの酸素を必要としているか、という問題ですが、どうやって計算すれば良いのでしょうか。人は呼吸で酸素を吸収し二酸化炭素を吐き出す、ということを考えれば人間が吐き出す二酸化炭素の量から酸素の消費量を求めることができるでしょう。人間が一年間に吐き出す二酸化炭素の量は約0.3トン。計算過程は以前の記事(その1、その2)で解説しましたが、呼吸の前後での二酸化炭素の増加に基づく計算と食事で人間が摂取する炭素の量からの計算、二つの方法でほぼ同じ結果となることから信頼性は高いと考えています。
年間二酸化炭素 0.3 t ということは1日では 約 800 kg でだいたい 20 mol となります。まずは、これと等量の酸素をオキシドールで供給する考えてみましょう。前回の記事で500mLのオキシドールから 0.22 mol の酸素が得られることが分かっていますから、1日当たり約100本のオキシドール(500mLサイズ)が必要なのだと計算できます。価格にして約4万円です。
さて、この計算にはいくつか問題があります。まず人間が吸収する酸素と吐き出す二酸化炭素の量は正確には一致せず、吐き出す二酸化炭素の方が少なめ(二割程度)です。人間に炭水化物ばかり食べている訳ではありません。脂肪などの呼吸(燃焼)の化学式を考えれば水素と反応する酸素の考える必要がありますからね。
また、もっと大きな問題は人間が肺に取り込んだ酸素を全て吸収できる訳ではない、という点でしょう。大気中の20%の酸素のうち、吸収できるのはその1/5の4%程度だといいます。
両方を考え合わせると必要な酸素の量は大体6倍程度になるでしょうか。一日600本のオキシドール(24万円)が必要で、2.4分毎に一瓶反応させることに。これはさすがに非現実的ですかね。
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