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音楽と工学技術(江頭教授)

| 投稿者: tut_staff

 ヨーロッパの歴史物の映画などを見ると「宮廷楽士」という人々が登場します。音楽を聴きながら食事をするなんてさすが王侯貴族は優雅なものだ、と思わせる描写です。また西部開拓時代の映画ならたき火を囲んでギターの伴奏で皆が歌うシーンを思い出します。日本の昔の映画、戦後すぐの若者が描かれた映画でも同様にギターと合唱というシチュエーションがあるものです。いずれも人間の生活には音楽が必要だ、ということを示していますが、それは同時に昔は音楽が貴重なものだった、という表現にもなっています。

 さて、現在の日本の人々はどうでしょうか。音楽が必要だ、というのは昔と変わりませんが、音楽が貴重だ、という点については大きく変化していると言えるのではないでしょうか。古くはレコードの発明(1877)やラジオ放送の開始(1920)によって大きく状況は変化したと思われますが、私個人としては実感できない歴史的な事象です。

 一方で、音楽が手軽に持ち運べるようになった、という変化は私の世代にとって実感をともなった技術革新の成果です。

Walkman

 トランジスタラジオの発売(1954)がはじまりでしょうか。小型(といっても今の基準で考えれば大きいのですが)で電池で動くラジオの登場によってラジオで放送される音楽を屋外できく、ということが可能になりました。私が物心つくころにはすでに電池で動くトランジスタラオは一般的なものでした。四角い形が特徴で9V出力の006P電池を使ったイヤホン出力のもの、単一や単二の比較的大きな電池を4つとか6つとか使っているスピーカー付のラジオが普通だったように思います。作動電圧が高く消費電力が大きな製品で小型の蓄電池もない時代では妥当な設計だったのでしょう。

 さて、それに続くのは録音テープを持ち運べるほどコンパクトにしたカセットテープの開発(1962)、そして携帯型のカセットテーププレイヤーである Walkman の大ヒット(1979)で、ここに至って本当に音楽は身近なものになったのだと思います。

 普通に生活しているとほとんど気がつかないのですが、音楽という身近なものを見ても工学技術の恩恵は計り知れないものがあるのですね。

江頭 靖幸

 

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